第75話「おやつはホットケーキ」
ミコちゃんも困った顔をしながら、
「最近おやつのレパートリーも限界なのよね」
わたし、不満~
みんなレッドの心配ばっかりです。
わたし、最近、プリン食べてないよーな…
むむ~、例の保健の先生、テーブルで店長さんとお話中ですよ。
わたし、お店の奥からそんな二人を見ているところです。
あ、背中をトントンされました。
「どうしたの?」
「あ、ミコちゃん……あれ、見てください」
「保健の先生? それが?」
「保健の先生、店長さんと仲良さそうですよ」
「そうねえ……それが?」
「わたし、すごく気になる」
ミコちゃんクスクス笑いながら、
「じゃあ、聞いてみたらいいじゃない」
「えー!」
ミコちゃん、台所に引っ込んじゃいました。
そうですね、面倒くさいから、ストレートに聞いちゃいましょう。
「店長さんっ!」
「何? ポンちゃん?」
「さっきから保健の先生と仲よさそうっ!」
わたし、ちょっと怒った感じで言います。
でも、店長さんも保健の先生もニコニコ。
「ポンちゃんは知らないか」
「も、もしかしたら二人は出来てるとか!」
「すぐそーゆー事言うね」
「じゃあ、なんなんですかっ!」
「長崎先生は昔の常連さんなんだよ」
「え……そうだったんですか」
「ポンちゃんの来るずっと前の事だからね」
「そうだったんですか~」
保健の先生、ニコニコしながら店長さんの横まで椅子を寄せると、
「なんなら、わたし、店長と出来てもいいんだけど」
って、言いながら店長さんの腕に腕を絡めます。
保健の先生、一瞬表情が固まると、
「私、ミコちゃんと店長が結婚してると思ったんだけど」
「な、なんて事言うんですかっ!」
「い、いや……だって……ねぇ」
「わたしが一番店長さんに近いんですっ!」
えいっ!
言いながらドサクサに紛れて店長さんの腕を捕まえるんですよ。
グイグイ引き寄せます。
店長さん、グイグイ押し戻し。
「店長さん、わたしを拒否するとどーなると思います?」
「コワイコワイ~」
それはもう終った話です。
わたしと店長さんがとっくみあい(?)をしていると、
「店長さん、いいかしら」
ミコちゃんです、困った顔で出てきました。
店長さん、わたしをグイグイ押し戻しながら、
「どうしたの? ミコちゃん?」
「今日の老人ホームなんだけど……」
「老人ホーム?」
店長さん、ちょっと首を傾げて、
「今日は配達なかったけど……注文も確かめたよ」
「ついさっき電話があって……」
「ついさっき……何?」
「老人ホームでホットケーキを作る……らしいの」
「うん、知ってる」
「ホットプレートは届いているらしいんだけど……」
「何? 粉がないとか!」
店長さんの言葉にミコちゃん頷きます。
ホットケーキ……わたし、ちょっと覚えがありますね。
「店長さん、わたし、知ってます」
「え……ポンちゃん何で知ってるの?」
わたし、カウンターから伝票持って来ると、
「この間の配達でホットケーキミックスがたくさんあったんですよ」
「え……」
「てっきりここで使うとばかり……注文してなかったけど」
わたしと店長さん、ミコちゃんで倉庫へ。
業務用のホットケーキミックス……貼られた伝票はココですね。
「お店の注文にはないけど、ほら、お届け先はパン屋さんですよ」
店長さん、貼られた伝票を見て、
「間違ったんだろうね……じゃ、持って行くか」
店長さん、ホットケーキミックスの箱を抱えて出発です。
「私もお手伝いしてくるわ」
ミコちゃんも行っちゃいました。
「じゃ、私も帰るとするか」
保健の先生もお帰りです。
わたしも行きたいけど、お店に誰もいなくなっちゃうからお留守番。
老人ホームのホットケーキ、無事出来るといいですね。
次の日の午後です。
駐車場ではレッドがシロちゃんとボール遊びをしているところ。
「さて、そろそろおやつの時間ですね」
お店にお客さんいませんから、おやつはお店のテーブルですね。
わたし、お茶を準備しながら、
「ミコちゃーん、お客さんいないから、おやつはこっちだよね」
「ポンちゃーん、ちょっとー」
ミコちゃんが呼んでいます。
なにかな?
台所に行ってみると、店長さんとミコちゃんが愛想笑い。
「どうしたんですか、二人とも」
「い、いや……おやつ、ないんだ」
「は?」
「昨日の残りはないし……プリンも何もないの」
「お店のメロンパンはダメなんです?」
「お店のはね……昨日のならOKなんだけど」
「どうしてです?」
「レッドに変な癖がつかないように」
「なるほど~」
わたしはおやつ、我慢できないでもないですが……
レッドは我慢できなさそう。
「駄菓子屋さんはどーです?」
「あれは決めた曜日だけ」
「でも、おやつ、ないんですよね」
「そ、そーなんだけどね」
手詰まり店長さん。
ミコちゃんも困った顔をしながら、
「最近おやつのレパートリーも限界なのよね」
「レッド、食べれればいいんじゃない?」
「メロンパンが続くと、ちょっと不満そうにしてるのよ」
「ミコちゃんよく見てる~」
って、台所のテーブルにはホットケーキミックスがありますよ。
「それ、焼いてあげたらどう?」
「!!」
店長さんとミコちゃんの頭上に裸電球点灯。
動き出すと早い早い!
「店長さん、ミコちゃん、どうしたの!」
店長さん、どこからともなくホットプレート。
ミコちゃんはジャムやホイップクリーム、あんこを出してきます。
「ミコちゃん、どうするんです?」
「今から作るのよ」
「え?」
「お店にホットプレート置いて、焼きながら食べるの」
「ふわわ」
「昨日、老人ホームにお手伝いに行って楽しそうだったから」
「ホットプレートで焼きながら……ですか」
「焼肉なんかと似てるかしら」
「確かに……楽しいかも」
そんなお店の様子に気付いたのか、レッドもやってきました。
「ポン姉、なになに~」
「今からおやつですよ」
「?」
レッド、ホットプレートを見て首を傾げてます。
「やきにくですか?」
「ホットケーキですよ」
わたしとレッド、並んで座ります。
ミコちゃんがニコニコしながら、溶いたホットケーキミックスを垂らします。
小さいのをたくさん作って……小さいせいか、すぐに焼けますよ。
って、レッド、焼けるのを見てしっぽ、ブンブン振ってるの。
一つ食べたと思ったら、
「ぼくもやりたーい!」
その気持ち、わかります。
このおやつはホットケーキを「食べる」楽しみだけじゃないみたい。
「作る」楽しみもあるんでしょうね。
レッド、フライ返しでホットケーキひっくり返してますよ。
すごく楽しそう~
ミコちゃんとレッドが一緒になって作っている間、わたし、店長さんを肘でつつきます。
『何、ポンちゃん』
『店長さん、作戦成功ですね』
『ふふ……レッド楽しそうにしてるよ』
『ですね~』
『今度はクレープでも作らせるか~』
『わたしも、ちょっと作ってみたい気分です』
『ポンちゃんもやってみたらいいよ』
店長さん、わたしにフライ返しを手渡してくれます。
レッド、わたしを見て、
「ポン姉もやるの~」
「わたし、レッドより上手にできるかな?」
「ぼく、まけませぬ~」
「わたしだって!」
わたし達が盛り上がっていると、カウベルが鳴ってお客さん。
見れば保健の先生です。
「あ、何やってんの? ホットケーキ?」
「今日のおやつは作って食べるんですよ」
「あはは~、確かに楽しいわよね」
「保健の先生もわかりますか?」
「焼肉とか……うーん、手巻き寿しとか」
「あ……なるほど~、手巻き寿しか~」
わたし、あれこれ想像しちゃいます。
「作りながら食べるって……楽しいですよね」
「じゃ、私も仲間に入れてもらおうかしら」
「はい、いいですよ~」
「って、私は面倒くさいの嫌だから、食べるだけでいい」
「さっき作りながら食べるのが……って言ってたのに~」
って、保健の先生、わたしを肘でつつきながら、
『レッドの楽しみ奪っちゃかわいそうでしょ』
『なるほど~』
って、駐車場に車が来て、別のお客さんも入ってきました。
フライ返しを持ったわたしとレッドを見て、
「あの~、私達もホットケーキを……」
別のお客さんはレッドをじっと見てから、
「この子に焼いてもらいたい!」
って、もうレッドを抱っこして言い出します。
どこで噂が広がっちゃったのか……
しばらくパン屋さん、ホットケーキを出す事になちゃいました。
店長さんとミコちゃん、仕事が増えてヘトヘト。
でも、レッドはお客さん相手にホットケーキ焼いて楽しそうだったり。
めでたしめでたし……かな?
「きのう、じいちゃとつりしたよ」
「ああ、わたし、見てましたよ」
「おおものげっと」
「ふふ、楽しかったですか?」
「ほんもの、つりたし」




