第2話 鏡の中の
違うようで似ている二人。
モーター員・イプシロンが、走りながら武器を構える。トリスがイプシロンの後を追っていた。トリスは彼に向かって飛びかかったが、彼の華麗なひと蹴りにより吹き飛ばされてしまう。彼はため息をつき、おまけに舌打ちをした。
「お前らのせいで苦労してるってのに」
倒れているトリスを手に持っている武器でとどめをさす。しかし、一体倒しただけでは身の安全は確保されない。全ての敵を倒すため、その後も油断せずに戦った。そのおかげかイプシロンは一発も攻撃は食らわず、見事トリスたちを蹴散らした。
本当にリバースを消す必要があるのか分からないまま、今日も命を削って戦っていた。
年々体力が足りなくなっていく感覚をひしひしと感じながら、俺は肩で息をしていた。すると、近くで見ていたにもかかわらず、手助けをしなかったもう一人のモーター員・シータが小さく手を叩きながら俺に歩み寄った。やがて前に止まると、口を開いた。
「相変わらず凄いね~。俺の出る幕がなかったよ」
「……今日は男なんだな」
「男の俺は嫌か?」
そう問うシータを見ると、嫌とは言いがたかった。この話は俺にもこいつにもいいことがないと思い、話題を変えようとした。
「別に。ただ、服装を正せとは思う」
「冷たいね」
「優しくするつもりはない」
ふーんと言って歩きだすシータの後をついていく。乱れた服装、意欲に欠け、だらしない生活を行う。そんな彼を見ていると、本当に俺と同じくらい優秀なのか疑いたくなる。俺が思うに、実力だけが本物といったところだ。
彼はよく俺のことを冷たいと言う。あながち間違ってはいないが、自分が恩を仇で返してばかりいることが原因の一つだと考えたことはないのだろうか。尤も、俺は人に優しく出来るような人間ではないが。
彼はまだ冷たい対応が気がかりのようで、「女の方にもこんなに冷たいわけ?」と問った。
「お前が女だろうと男だろうと対応は変わらない」
「いいのか悪いのかわからない回答だな……」
彼は照れ臭そうに頭をかいている。本当に俺の対応が嫌なんだろうか。彼の仕草を見ると、嫌そうには思えない。
というか、女であれ男であれシータがシータであることには変わりはないのだから、俺が対応を変える必要性がない。あるとしたら、俺とお前が最後になるときか天地がひっくり返ったときくらいだ。まあ、そのときが来れば優しくしてやろうか。そのときが来ればだが。
しばらく黙って歩いていると、シータが突拍子もないことを言い出した。
「女の俺は大変そう?」
「急になんだ」
「俺、問題を起こしてるつもりはあるし、迷惑かけてるかもなーって」
シータがまさかそんなことを考えられるとは思わなかった。あのだらしなくて、貞操概念も緩くて、意欲にかけているシータが。この事実は俺にとって人生最大の驚きだ。お前への見方が変わるぐらいに驚いている。
「……見たことない顔してるよ?」
当たり前だ。あんなに頭の足りなかったお前が、自分の行動を客観的に見れるようになっているのだ。驚かないわけがない。
自分でも疑うくらい口が大きく開いていた。はっとして急いで閉じ、咳払いをして態勢を立て直す。
「自覚があるなら行動を正せ」
「すみませーん」
彼はけらけらと笑って走った。人通りの少ない道とはいえど、もう少し落ち着きを持つべきじゃないんだろうか。もう25を過ぎているんだぞ。
彼が元気よく走るのを対照に俺はゆっくり歩いている。彼は突然振り返るとこう叫んだ。
「お前がいるなら俺は何も要らない!」
シータは晴れがましいほど笑顔だった。
本当に、お前は俺がいればいいのか。俺以外に何も要らないのか教えてほしい。俺もお前がいるなら何も要らないから。
道をまっすぐ進むと、やがて大きな通りに出た。沢山の出店やはしゃぐ子供、酒を片手に笑う大人、誰もが幸せそうだった。風景を眺めながら歩いていると、隣にいたはずのシータがいなくなっていた。周りを見回すと気の弱そうな男にナンパしていた。その男はシータ好みの顔だった。
「ねぇ、そこのおにーさん。俺と遊ぼーよ」
いつものことであり、俺は何も思わないのだが、モーターの評価を下げると上から怒られるので止めなければならない。尤も、俺たちに要らない寄り道をする予定はない。
声を荒げ、彼に呼び掛ける。
「おいこら、シータ!」
シータの体がビクッと動いたと思えば、ゆっくりとこちらを振り向いた。不味いと言わんばかりの顔だった。そんな顔をするくらいならば元々しなければいいのになと思う。
シータは相手に謝ったようで、自分の方に戻ってきた。俺の方にも軽く謝るとまた去ろうとした。今度こそは逃がさんと思い、彼の首根っこを掴んだ。
「ほら帰るぞ」
「まだいい人がいるかもしれないのに~」
俺は駄々をこねるシータを引きずりながら、本部へと歩いていく。
シータは俺以外要らないはずなのに、愛せる人を探し続けている。その理由を俺はまだ知らないのだ。きっと俺が死ぬまで教えてくれないのだろうが、早めに教えてほしいものだ。
だって、お前の知らないところで死んだら、俺は知らないままだろ。そんなの寂しいじゃないか。
ありがとうございました。




