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56歳孤独な男の独白  作者: 無能で孤独な男
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謝罪動画

翌朝、私はいつもより早く目を覚ました。


女子生徒たちへ言ってしまった言葉が、頭から離れなかった。


あんな言い方をする必要はなかった。


黙って耐えていれば、それで済んだはずだった。


「今の、彼氏に言うから」


その言葉も気になっていた。


だが、本当に彼氏へ話すとは限らない。


仮に話したとしても、清掃員の発言など、わざわざ問題にしないだろう。


そう考えながら、私は学校へ向かった。


午前中は何も起きなかった。


昨日の女子生徒たちと一度だけ廊下ですれ違った。


彼女たちは私を見ると、小声で何かを話して笑った。それだけだった。


私は少し安心した。


昼休みになり、二階の廊下を掃除していた。


生徒たちが教室へ戻り始め、廊下から人が少なくなったころだった。


「おい」


後ろから声をかけられた。


振り返ると、三人の男子生徒が立っていた。その隣には、昨日の女子生徒がいる。


先頭の男子生徒は背が高く、シャツをズボンから出し、ネクタイを緩めていた。


「こいつ?」


男子生徒が女子生徒に尋ねた。


「うん。こいつ」


女子生徒は私を指さした。


男子生徒は私の前まで来ると、何も言わずに顔を見つめてきた。


怒鳴られるよりも、その沈黙の方が怖かった。


「昨日、俺の彼女に馬鹿って言ったんだって?」


「いえ、皆さんを馬鹿だと言ったわけではありません」


「じゃあ、何て言ったの?」


「動画を撮るより、勉強をした方がいいと……」


「馬鹿みたいなことしてないで勉強しろって言ったんでしょ?」


女子生徒が口を挟んだ。


間違ってはいなかった。


私は確かに、そう言った。


「申し訳ありませんでした」


頭を下げた。


男子生徒たちが小さく笑った。


「早くね? まだ何も言ってないけど」


「すみません」


「何で謝ってんの?」


「不快な思いをさせてしまったので」


「じゃあ、ちゃんとこいつに謝ってよ」


私は女子生徒の方を向いた。


「昨日は、失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」


深く頭を下げた。


そのとき、目の端に携帯電話が見えた。


男子生徒の一人が、少し離れた場所からこちらにカメラを向けていた。


「撮影はやめてください」


私が言うと、先頭の男子生徒の表情が変わった。


「何? また文句?」


「いえ……」


「謝るの嫌なの?」


「そういうわけではありません」


「じゃあ、もう一回」


私は黙った。


ここで逆らえば、騒ぎになる。


学校から清掃会社へ連絡が行けば、今度こそクビになるかもしれない。


そのとき、廊下の向こうから教師が歩いてきた。


助かったと思った。


だが、教師は一度こちらを見ただけだった。


男子生徒たちは道を空け、何事もなかったように黙った。


教師は足を止めなかった。


私たちの横を通り過ぎ、そのまま階段を下りていった。


男子生徒が、その背中を見ながら笑った。


ほかの生徒たちも笑った。


私はもう一度、女子生徒へ頭を下げた。


「昨日は申し訳ありませんでした。今後は、皆さんに余計なことを言いません」


「最初からそうすればよかったじゃん」


女子生徒は満足そうに言った。


「おじさん、反省した?」


「はい」


「何を反省したの?」


言葉に詰まった。


男子生徒の携帯電話は、まだ私に向けられている。


「生徒の皆さんに、余計なことを言ったことです」


「聞こえない」


「余計なことを言って、申し訳ありませんでした」


今度は少し大きな声で言った。


男子生徒たちは、笑いながら立ち去った。


私はその場に残り、しばらくモップを動かすことができなかった。


放課後、ゴミを回収していると、廊下ですれ違った生徒が私を見て笑った。


「おじさん、反省した?」


知らない生徒だった。


次にすれ違った二人組も、携帯電話の画面を見ながら、私の顔と見比べていた。


「馬鹿みたいなことしてないで、勉強した方がいいですよ」


私の口調をまねて、笑いながら走っていった。


昼休みに撮られた動画が、すでに生徒たちの間で回っているらしかった。


誰かが仲間内のグループに送り、それを受け取った生徒が別の友人へ送っていた。


一般に公開されているわけではない。


教師も、清掃会社も、まだ知らない。


それでも、校内で私を笑いものにするには十分だった。


翌朝には、見覚えのない下級生まで私の顔を知っていた。


動画には、私が女子生徒へ頭を下げている場面だけが映っていた。


そこに至るまでに何があったのかは、どこにも残されていなかった。


謝れば終わると思っていた。


だが、彼らにとってあの謝罪は、終わりではなかった。


私を笑いものにしてもいいという、始まりだった。

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