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56歳孤独な男の独白  作者: 無能で孤独な男
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10/19

高校生にバカにされる56歳


動画が広まってから、生徒たちの態度が変わった。


それまでは、誰も私の存在など気に留めていなかった。


今は廊下を歩くだけで、視線を感じる。


「あの人じゃない?」


「謝ってた清掃員?」


そんな声が聞こえても、私は反応しなかった。


数日もすれば、みんな飽きるだろう。


そう思っていた。


その日の昼休み、私は三階の廊下を掃除していた。


近くにいた男子生徒が、私を見るなり友人の肩を叩いた。


「あれやってもらおうぜ」


四人の生徒が、笑いながら近づいてきた。


最初に声をかけてきた生徒が、携帯電話を私へ向けた。


「おじさん、反省した?」


私は答えずにモップを動かした。


「無視されたんだけど」


「もう反省してないんじゃね?」


「また謝罪させようぜ」


彼らは不良という感じではなかった。


制服も普通に着ており、髪も染めていない。


廊下ですれ違っても、以前なら私を見ることすらなかった生徒たちだった。


そのうちの一人が、飲みかけの紙パックを床へ落とした。


中に残っていたジュースがこぼれた。


「あ、ごめん。掃除お願い」


ほかの生徒たちが笑った。


私はモップを止め、用具室から雑巾を持ってきた。


何も言わず、床に膝をついた。


「おじさん、仕事早いね」


「さすがプロ」


「東大とか行けそう」


その言葉に意味はなかった。


彼らは、私が東大を卒業したことなど知らない。


偶然出ただけの言葉だった。


それでも、胸の奥に何かが刺さった。


私は黙ってジュースを拭いた。


「ちゃんと反省したって言ってよ」


「言ったら、もうやめるから」


「早くして。動画撮ってるから」


やめてほしかった。


これ以上、別の動画まで生徒たちの間に広められたくなかった。


「反省しています」


私が小さく答えると、彼らは声を上げて笑った。


「本当に言った!」


「もう一回、もっと大きな声で!」


一人が私の前へ空の紙パックを蹴った。


それは私の膝に当たり、床へ転がった。


周囲には、いつの間にか別の生徒たちも集まっていた。


誰も止めなかった。


携帯電話を向けながら、ただ笑っていた。


そのときだった。


笑い声が、突然小さくなった。


集まっていた生徒たちの視線が、私の後ろへ向いた。


私も振り返った。


廊下の奥から、五人の男子生徒が歩いてきていた。


先頭にいるのは、私に謝罪させた、あの女子生徒の彼氏だった。


背が高く、髪は明るい茶色に染められていた。シャツのボタンを胸元まで開け、ネクタイはポケットに押し込んでいる。耳には銀色のピアスが光っていた。


その隣には、短く刈った髪に眉毛の薄い、肩幅の広い生徒がいた。制服の袖を肘までまくり、手首には太い金属の腕輪をつけていた。


後ろの三人も、金髪や赤みがかった髪をしていた。


一人は腰から太いチェーンを下げ、もう一人は校内なのに黒いサングラスを頭へ乗せている。最後の一人は制服の上から黒いパーカーを着て、両手をポケットへ入れていた。


全員が制服を着ていた。


だが、普通の生徒とは明らかに違っていた。


彼らが近づくにつれ、廊下にいた生徒たちが壁際へ寄り、道を空けていった。


誰かに説明されなくても分かった。


この学校で恐れられている不良グループだった。


先頭の男子生徒が、私を囲んでいた一人を見た。


「何してんの?」


静かな声だった。


「いや、別に……」


「こいつで遊んでた?」


「遊んでないです。動画見て、ちょっと話してただけで」


先ほどまでの笑顔は消えていた。


「ふうん」


それだけで、生徒たちは携帯電話を下ろした。


「じゃあ、俺たちもう行くんで」


一人がそう言うと、ほかの生徒たちも続いた。


床に落とした紙パックも、こぼしたジュースも、そのままだった。


少し前まで私を取り囲んでいた者たちは、振り返ることなく廊下から逃げていった。


見物していた生徒たちも、同じようにいなくなった。


残されたのは、私と五人の不良だけだった。


先頭の男子生徒が、床に転がっていた紙パックを踏み潰した。


「人気者じゃん、おじさん」


私は立ち上がった。


「仕事がありますので」


「知ってるよ」


男子生徒は笑っていた。


だが、目は笑っていなかった。


「ちょっと来て」


「申し訳ありません。今は勤務中ですので」


「すぐ終わるから」


「ですが……」


背後にいた、肩幅の広い生徒が私の肩へ腕を回した。


強い力で引き寄せられた。


「別に取って食ったりしねえよ」


酒とも煙草とも違う、甘い香りがした。


逃げようとは思わなかった。


逃げれば追いかけられる。


大声を出せば騒ぎになり、学校から清掃会社へ連絡されるかもしれない。


次に問題を起こしたらクビだ。


清掃会社の人間に言われた言葉が、頭の中で繰り返された。


「モップは置いてけよ」


私は壁際にモップを立てかけた。


五人に囲まれ、廊下の奥へ歩かされた。


教室から遠ざかるにつれ、生徒の声が聞こえなくなっていった。


連れていかれたのは、旧校舎へ続く渡り廊下だった。


窓ガラスにはひびが入り、床の隅には煙草の吸い殻が落ちていた。


その先に、今は使われていない部屋があった。


扉には「第二教材室」と書かれていた。


先頭の男子生徒が扉を開ける。


中から、強い煙草の臭いが流れてきた。


窓にはカーテンが閉められ、床には空き缶や菓子の袋が散らばっていた。


壁には落書きがあり、学校から持ち込んだらしい古いソファまで置かれていた。


そのソファには、さらに数人の生徒が座っていた。


ここが彼らの溜まり場なのだと、すぐに分かった。


「入って」


私は動けなかった。


背中を押された。


よろめきながら部屋へ入ると、後ろで扉が閉まった。


鍵のかかる音がした。

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