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56歳孤独な男の独白  作者: 無能で孤独な男
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東大を出たのに惨めな人生

扉の鍵が閉められた。


私は、部屋の中央に立たされた。


五人の不良たちが、逃げ道を塞ぐように私を囲んだ。奥のソファに座っていた生徒たちも、面白そうにこちらを見ている。


リーダー格の男が、私の前へ立った。


「おっさんさ、俺の女に説教したんだって?」


「申し訳ありませんでした。その件については、昨日謝罪を……」


「謝ったら終わりなの?」


「いえ、そういうわけでは……」


言葉を選んでいると、頬を平手で叩かれた。


乾いた音が、狭い部屋に響いた。


「聞かれたことだけ答えろよ」


「すみません」


反射的に頭を下げた。


それを見て、周囲の生徒たちが笑った。


「こいつ、すぐ謝るじゃん」


「動画と同じだ」


リーダー格の男は、私の肩を軽く叩いた。


「まあ、いいや。今日からお前、俺らのパシリな」


「え……」


「聞こえなかった?」


「いえ、聞こえました」


「昼になったら、パンとジュース買ってこい。金はお前が出せよ」


「それは困ります」


自分でも驚くほど小さな声だった。


男の表情が変わった。


「今、断った?」


「給料が少ないので、毎日は……」


腹を蹴られた。


息が詰まり、私は床へ膝をついた。


「お前の事情なんか知らねえよ」


「申し訳……ありません」


「財布出せ」


私は腹を押さえながら、顔を上げた。


「財布ですか?」


「持ってんだろ。早く出せよ」


「勘弁してください」


今月は、まだ半分以上残っている。


財布の中には、食費と交通費を合わせて一万三千円が入っていた。それを失えば、給料日まで生活できない。


「そのお金がないと、困るんです」


「俺らも困ってるから」


「お願いします。交通費だけでも……」


肩幅の広い生徒が私の身体を押さえ、別の生徒が作業着のポケットへ手を入れた。


抵抗することはできなかった。


財布を取り出され、リーダー格の男へ渡された。


彼は中身を確認すると、紙幣をすべて抜き取った。


「一万三千円か。おっさんのくせに全然持ってねえな」


「返してください」


「何?」


「そのお金だけは、返してください」


必死に手を伸ばした。


その手を払われ、顔を殴られた。


眼鏡が飛び、床を滑っていった。


「パシリが勝手に触んなよ」


視界がぼやけた。


私は床を這い、男の足にしがみついた。


「お願いします。それがないと、仕事にも来られないんです」


「歩いて来ればいいじゃん」


笑い声が起きた。


「家、どこ?」


「歩けば二時間くらいかかります」


「じゃあ早起きしろよ」


リーダー格の男は、抜き取った紙幣を自分のポケットへ入れた。


私は何度も頭を下げた。


「お願いします。せめて交通費だけでも返してください」


「しつこいな」


髪をつかまれ、顔を上げさせられた。


「服脱げよ」


何を言われたのか理解できなかった。


「え?」


周囲の生徒たちが笑った。


「動画撮ろうぜ」


「やめてください」


私は立ち上がろうとした。


すぐに背中を蹴られ、再び床へ倒れた。


数人に囲まれ、作業着を無理やり脱がされた。抵抗するたびに、拳や蹴りが飛んできた。


上着を奪われ、シャツを引き抜かれ、ズボンまで脱がされた。


最後には、パンツ一枚で床に座らされていた。


両腕で身体を隠した。


五十六歳のたるんだ腹も、細くなった脚も、すべて見られていた。


携帯電話のカメラが、何台も私へ向けられていた。


「やめてくれ……」


声が震えた。


「お願いだから、撮らないでくれ」


「顔隠すなよ」


腕を蹴られた。


私は身体を丸めた。


惨めだった。


悔しかった。


悲しかった。


不良の前で、下着一枚にされ、金を奪われ、命乞いをするように頭を下げている。


これが自分の人生なのかと思った。


何かが、胸の奥で切れた。


「なんで……」


涙があふれた。


「なんで俺が、こんな目に遭わないといけないんだよ!」


部屋の笑い声が止まった。


私は床を叩きながら、泣き喚いた。


「俺が何をしたんだよ! ずっと我慢してきたんだ! いじめられても、馬鹿にされても、遊びたいのを我慢して勉強したんだよ!」


「何の話だよ」


「俺は東大を出たんだぞ!」


鼻水も涙も止まらなかった。


もう、みっともないとも思わなかった。


「俺は東大を出たのに! 東大に入れば幸せになれるって言われたのに! いい大学に入れば、立派な大人になれるって、人生はうまくいくって言われたんだ!」


自分でも何を言っているのか分からなかった。


五十六年間、誰にも言えなかった言葉が、次々と口からあふれた。


「なのに、なんで俺はこんな惨めな人生を送っているんだよ! 会社も続かなくて、夢もかなわなくて、結婚もできなくて、友達もいなくて!」


私は、自分の裸同然の身体を両腕で抱いた。


「毎日、人のゴミを拾って、誰にも必要とされなくて、今はガキに金を取られて、服まで脱がされて! 俺の人生は何だったんだよ! 何のために勉強したんだよ!」


「うるせえよ」


不良の一人が私の肩を蹴った。


それでも私は止まらなかった。


「お前たちに何が分かるんだよ! 俺だって昔は期待されてたんだ! 東大に受かったときは、みんなが褒めてくれたんだ!」


「東大、東大うるせえんだよ!」


リーダー格の男の拳が、私の顔面に当たった。


後頭部が床へぶつかった。


頭の内側で、鈍い音が響いた。


視界が白くなった。


声が出なくなった。


誰かが腹を蹴った。


身体を丸めようとしても、手足に力が入らなかった。


笑い声も怒鳴り声も、遠くから聞こえる。


リーダー格の男が、私の襟元をつかんだ。


「まだ自分の方が偉いと思ってんの?」


私は答えられなかった。


男の顔が二つに見えた。


唇が動いているのは分かったが、声はほとんど聞こえなかった。


もう一度、拳が振り上げられた。


避けることも、頭を守ることもできない。


私は身体を丸める力さえ残っておらず、ただ目を閉じた。











…だが、いつまで待っても拳は飛んでこなかった。


代わりに聞こえてきたのは、不良たちの戸惑った声だった。


「……誰だよ、お前」


薄く目を開けた。


振り上げられた男の拳が、私の顔のすぐ手前で止まっていた。


いや、止まったのではない。


背後から伸びてきた細い手が、男の手首をつかんでいた。


男は腕を引こうとしていた。


それでも拳は、少しも動かなかった。


ぼやける視界の中で、私はその手を目で追った。


制服の袖。


細い腕。


そして、リーダー格の男の背後に立つ、小柄な人影。


黒いバイク用のヘルメットだった。


頭部全体を覆うフルフェイス型で、黒いシールドの奥は暗く、顔も表情もまったく見えない。


その異様な頭部の下には、この学校の女子生徒の制服があった。


白いシャツ。


短いスカート。


細い脚。


間違いない、図書室で1人黙々と勉強していたあの生徒だった。


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