いじめられっ子の学校生活
第5話 学校へ戻る
次の現場が高校だと聞いた瞬間、私は絶望した。
その高校が県内屈指の不良校だから、という理由だけではない。
私は、学校という場所そのものが嫌いだった。
勉強ができたのだから、学校生活も順調だったと思われるかもしれない。
実際は反対だった。
小学生の頃から、私は運動が苦手だった。
走ればいつも最後。
球技では、何度もボールを取りこぼした。
体育でチームを決めるとき、私は必ず最後まで残された。
「こいつがいると負ける」
そう言われても、笑うしかなかった。
反論すれば、さらに馬鹿にされる。
教師は「みんな仲良くしなさい」と言ったが、次の授業になれば忘れていた。
中学校へ進むと、いじめはさらにひどくなった。
教科書を隠された。
上履きをゴミ箱へ捨てられた。
背中に紙を貼られ、教室中から笑われたこともある。
私がテストで良い点を取ると、今度は「勉強しかできない」と言われた。
それは事実だった。
だから、何も言い返せなかった。
高校一年生のとき、好きな女子ができた。
彼女は、私にも普通に話しかけてくれた。
それだけで、自分にも可能性があると思ってしまった。
放課後、私は彼女を呼び出して告白した。
「ごめんなさい」
彼女はそう言って、すぐに去っていった。
振られたことより、翌日の方がつらかった。
私が告白したことは、クラス中に広まっていた。
男子たちは私の顔を見るなり、彼女の名前を呼んだ。
女子たちは私を見て笑った。
彼女も友人たちに囲まれながら笑っていた。
あのとき、何を話していたのかは分からない。
私のことではなかったのかもしれない。
それでも、私には自分を笑っているように見えた。
私は学校で、何一つ認められなかった。
運動もできない。
面白い話もできない。
友人も作れない。
好きな人に、好きになってもらうこともできない。
私にできたのは、勉強だけだった。
悔しさも、恥ずかしさも、すべて机へ向かう力に変えた。
いつか東京大学に入れば、私を馬鹿にした人間たちを見返せる。
東大に合格すれば、自分には価値があると証明できる。
そう信じて、私は勉強した。
学校から帰ると、夜中まで参考書を解いた。
休日も外へ出ず、一日中机に向かった。
そして私は、東京大学に合格した。
だが、その先の人生がうまくいかなかったことは、すでに書いたとおりだ。
結局、私は誰のことも見返せなかった。
それどころか五十六歳になり、もう二度と関わりたくなかった学校へ、清掃員として戻ることになった。
次の現場が決まってから、私は毎晩のように昔の夢を見た。
笑い声。
隠された教科書。
ゴミ箱に捨てられた上履き。
私を振った女子の「ごめんなさい」という声。
目を覚ましても、胸の奥には当時の苦しさが残っていた。
それでも、行かなければならない。
次に問題を起こせば、清掃会社もクビになる。
そうして過去を思い出しているうちに、初出勤の日がやってきた。
朝五時。
目覚まし時計の音が、暗い部屋に鳴り響いた。




