忍び寄る影
校舎裏で、田代と武藤が向かい合っていた。
「先生、目を閉じたら駄目だよ」
武藤が右手を伸ばす。
田代は驚いて顔を背けた。
「怖いんだから仕方ないだろ」
「見てないと避けられないよ。私の肩と腰を見て」
「顔じゃないの?」
「顔を見てても、次にどこを動かすか分からないでしょ?」
武藤が再び拳を伸ばす。
田代は不格好ながらも横へ動き、拳を避けた。
「今のはどう?」
「遅いけど、さっきよりはいい感じ」
「もう少し褒めてくれてもいいんじゃないかな」
二人から少し離れた校舎の陰に、三人の男子生徒が隠れていた。
いずれも黒田派に所属する一年生だった。
一人がスマートフォンを構え、二人の稽古を撮影している。
「あの清掃員、女から格闘技を習ってるみたいです」
撮影していた男が、電話の相手へ小声で報告する。
『どの程度だ?』
「全然です。まだパンチを避ける練習をしてるくらいで」
『女の方は?』
「相当慣れてます。前にやられた連中が言ってたとおり、たぶん格闘技経験者です」
『分かった。しばらく見てろ』
電話が切れる。
翌日も、黒田派の生徒たちは二人を監視した。
昼休みには、廊下の曲がり角から。
放課後には、向かいの空き教室から。
夜には、校舎の外から清掃室の明かりを見つめていた。
「あいつら、毎日あそこにいるな」
「女は授業が終わったら、すぐ清掃室に入ってる」
「何してんだ?」
「わかんねぇ。おそらく、この学校を制覇する為の作戦を立ててんだろ」
「黒田さんを差し置いて、学校制覇なんて許さねえ」
だが、誰も二人には手を出さなかった。
柴崎から、監視だけを続けるよう命じられていたからだ。
田代と武藤が何時に登校し、どこで格闘技の練習を行い、何時まで清掃室に残るのか。
黒田派は時間をかけて、その生活を調べ上げていった。
そして、一か月後。
報告を聞き終えた柴崎剛は、一人で立ち上がった。
「俺が行く」




