孤独な男の1日
第2話 孤独な男の一日
朝五時、目覚まし時計が鳴る。
私は布団から手だけを伸ばし、音を止めた。
起きたところで、待っている人はいない。朝食を用意してくれる人も、行ってらっしゃいと言ってくれる人もいない。
それでも、仕事には行かなければならない。
顔を洗い、昨日の残りのご飯にインスタントの味噌汁をかけて食べた。
部屋に聞こえるのは、箸が茶碗に触れる音だけだった。
六時にアパートを出た。
駅へ向かう途中、犬を散歩させている夫婦とすれ違った。
二人は今日の天気について話していた。
特別な会話ではない。
それでも私には、ひどく眩しく見えた。
電車には、これから仕事へ向かう人たちが乗っていた。
隣に座った若い男女は、同じイヤホンを片方ずつ耳に入れ、スマートフォンを見ながら笑っていた。
私は窓の外へ顔を向けた。
恋人たちが嫌いなわけではない。
家族連れを憎んでいるわけでもない。
ただ、彼らを見ると、自分が手に入れられなかった人生を見せられているような気分になった。
七時、いつもの勤務先に到着した。
私が清掃を担当しているのは、駅前にある商業施設だ。
毎朝、同じ制服に着替え、開店前の床をモップで拭く。トイレを掃除し、ゴミ箱の袋を交換する。
誰かが汚した場所を、誰にも気づかれないように元へ戻す。
それが私の仕事だった。
昼休みは、従業員用の休憩室で一人、おにぎりを食べた。
少し離れた席では、若い従業員たちが休日の予定を話していた。
旅行、遊園地、恋人との食事。
私は食べ終わると、まだ休憩時間が残っていたが、清掃用具置き場へ戻った。
会話を聞いているより、一人でいる方が楽だった。
午後四時、仕事が終わった。
帰りにスーパーへ寄ると、夕食の材料を選ぶ親子がいた。
子供が菓子をかごへ入れ、母親が棚へ戻す。父親が笑いながら、また同じ菓子をかごへ入れた。
私は半額の弁当だけを買った。
帰宅すると、朝と同じ静かな部屋が私を迎えた。
テレビをつけると、家族向け住宅の宣伝が流れていた。
広いリビングで、若い夫婦と二人の子供が笑っている。
私はチャンネルを変えた。
今度は、男女が旅行する番組だった。
テレビを消した。
静かになると、自分が一人であることを、より強く感じた。
結局、もう一度テレビをつけた。
内容は何でもよかった。
人の声が聞こえていれば、それでよかった。
弁当を食べ、風呂に入り、午後九時には布団へ入った。
今日も誰ともまともに話さなかった。
明日も朝五時に起き、六時に家を出る。
同じ場所へ行き、同じ床を磨き、同じ部屋へ帰ってくる。
それが、私の毎日だ。




