第十話 転生者と猫の旅立ち
夜が明けないうちに、私はルークと一緒にラスウェル伯爵家のタウンハウスを出た。
卒業を間近に控え、ある程度、部屋の整理をしていたこともあり、すぐに発つことができた。
まあ、元々大切なものは収納魔法でしまっていたから、大したものを置いてはいなかったし。ここを離れる時期が少し早まり、行き先も少し変わってしまったけれど。
「ねえ、ルーク。さすがに歩いて行くのは難しいと思うのよ」
私を先導するように前を歩くルークが私の言葉に反応しピタリと足を止め、私の顔を見上げると、小さく「にゃあ」と鳴いた。
(ルークって……やっぱり言葉を理解している?)
初めて会った時から何となく感じていた。いくら飼い猫だったとしても、意思の疎通ができすぎている気がする。
私はその場にしゃがむと、ルークの瞳を見つめた。今までも月明かりでしか見ていなかったが、改めてじっくり見ると夜空のように濃紺で縁が金色に輝いている。
「ルーク……?」
(この瞳……どこかで――)
私と視線を交わしていたルークは小さく首を傾けると、ひらりと体勢を変え、歩き出した。
「ちょっ……ちょっと待って、ルーク!」
スタスタと先を歩き進めるルークを呼ぶも、止まる気配はない。
私はルークを見失わないよう歩みを速めながら詠唱した。
「《抽出》」
私が魔法を口にした瞬間、前を進むルークが勢い良く振り返った。それと同時に私の手の中に魔法具が現れる。
いつでも使えるように“収納”しておいた転移装置。学園で授業中に使ったものを一度、“収納”し、“複製”しておいたものだ。
学園は私にとって、宝の山だった。
それなりに権威のある教授たちの様々な魔法を“収納”することができ、それを生成して自分の魔法に変えることができた。授業で使用した魔法具や薬の類も同様で、これからの生活に全く困らないくらい“収納”してある。
伯爵家のタウンハウスにあるものも、必要だと思われるものや気に入ったものはすべて“収納”してある。
もちろん、母の執務室にあった家具や調度品、愛用していたものも。それに思い入れのあるのものは原物を“収納”して、“複製”に入れ替えておいた。だから、父が捨ててしまったであろう母の遺品はすべて複製品だ。誰一人、気づくわけないけれど。
そんな経緯で私の掌には今、転移のできる魔法具が載っている。生きている馬は“収納”できないし。でも、移動手段は必要だから。
転移魔法も“収納”はしてあるが、今、魔法の痕跡を残すわけにはいかない。転移魔法には膨大な魔力を伴うから、魔力の強い人間には気づかれてしまう。その点、転移装置であれば、そこまで遠くには行けないが、普段よく使われているから、目立たない。
まずは一番近い街まで転移して、今夜は宿に泊まることにしよう。
「ルーク、おいで」
ルークは私の掌にあるものを把握しているかのように、私の腕の中に飛び込んできた。
「行くよ、《起動、転移、王都の街プルティウス》」




