第6話 新たなる仲間
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次の日、パーティー『暁の太陽』としての、記念すべき初任務の日がやってきた。
内容は、リヴァージュ北の森にある浅層部の定期監視。駆け出しギルドに割り振られる典型的な雑務だ。だが俺にとっては、失った信頼を取り戻すための、小さくも重要な第一歩だった。
ミーナに見送られ、俺とラークスとリーゼの三人は、任務のために街の北門へと向かった。だが、俺の前途を祝う者など、この街には誰もいなかった。
北門に差し掛かった時、二人の衛兵が俺の顔に気づき、ニヤニヤと笑みを浮かべながら道を塞いだ。
「おっと、これはこれは。裏切り者のロゼット様じゃないかあ。まだこんな街にいたのか、懲りない奴だな」
衛兵の一人が、わざとらしく槍の柄で俺の胸をつつく。更にもう一人の衛兵が、俺たちの後ろに立つラークスとリーゼを値踏みするように見ながら、嘲笑った。
「おいおい見ろよ、今度は暁の太陽だってさ。あの万年Cランクのひよっこパーティーか。今度はそんな弱小パーティーで王様気取りで威張り散らかすつもりか? はっ、お似合いじゃないか」
その言葉に、リーゼの纏う空気が一瞬で氷点下に達した。
「道を開けてください。私たちは都市の公的な依頼で、ここを通ります。あなたたちに、それを妨害する権限はないはずです」
冷静だが、その声には静かな怒りが燃えている。だが、衛兵たちは彼女の抗議を鼻で笑うだけだった。
「へえ、ずいぶん可愛い子たちを揃えたじゃないか。追放されたと思ったら、今度は女をはべらせてんのか?」
その下品な視線がラークスに向けられると、彼女は怯えてリーゼの後ろに隠れた。
俺は、奥歯をギリリと噛み締め、燃え上がりそうな怒りを必死でこらえた。ここで俺が手を出せば、それこそ奴らの思う壺だ。パーティーに、そしてミーナに、これ以上迷惑はかけられない。
俺が黙り込んでいると、衛兵はつまらなそうに舌打ちし、俺の顔にぐっと顔を近づけて、吐き捨てるように言った。
「ったく、俺たちだってお前を捕まえたいところなんだがな。あいにく、シグルドさんが慈悲をかけてくださったせいで、お前は『犯罪者』じゃない……せいぜい、そのひよっこたちのお守りでもしてな、元英雄さんよ」
衛兵たちは侮辱的な笑い声を上げながら、ようやく道を開けた。俺たちは、無言で門をくぐる。背後から突き刺さる嘲笑が、いつまでも耳に残った。
ラークスは怯えきっており、リーゼは悔しさに唇を噛み、その白い肌をさらに青白くさせている。俺のせいで、彼女たちまで余計に侮辱された。その事実が鉛のように重く、俺の心にのしかかった。
「わあ、きれ〜い!」
森の浅層部は、街での出来事が嘘のように、穏やかな空気に満ちていた。
「油断は禁物よ、ラークス。どんな時も、周囲の警戒は怠らないこと」
リーゼが、常に矢をつがえる体勢を崩さず、冷静に注意を促す。俺も、索敵の魔法を維持しながら、慎重に周囲の気配を探っていた。ヴァレストの力を得たからか、不思議とその精度は以前とは比べ物にならないほど上がっている。
その、俺の研ぎ澄まされた感覚が、突如として最大級の警鐘を鳴らした。
「伏せろ!」
俺が叫ぶのと同時に、遠くから地鳴りが起きた。
ドッ……ドッ……ドッ!!
大地が揺れ、小鳥たちが一斉に飛び立つ。尋常ではない質量を持つ何かが、猛烈な速度でこちらに接近してきている。次の瞬間、俺たちの目の前の木々がへし折られ、そいつは姿を現した。
「……オーク!?」
リーゼが息を呑む。だが、それはただのオークではなかった。
通常の個体の二倍はあろうかという、規格外の巨体。その皮膚は沼のような深い緑色で、所々が岩のように硬質化している。希少種だ。
「ひっ……」
ラークスは、その圧倒的な威圧感に押され、へなへなとその場に腰を抜かしてしまった。
「ラークス、しっかりしなさい!」
リーゼが叱咤しながらも即座に弓を引き絞り、三本の矢を放つ。
ギンッ! ギンッ!
しかし矢は、オークの岩のような皮膚に突き刺さることなく、甲高い音を立てて弾き返された。
「嘘……矢が、通らない!?」
リーゼの顔に、初めて焦りの色が浮かぶ。その一瞬の隙を、オークは見逃さなかった。獲物を見つけた肉食獣のように、最も弱っているラークスへと狙いを定め、巨大な棍棒を振りかぶりながら突進してくる。
「ラークス!」
「いやっ……た、助けて!」
間に合わない。
俺は、思考よりも先に、体が動いていた。
「うおおおっ!!」
俺は、腰を抜かしたラークスの前に、身を投げ出すようにして飛び出した。盾になる。オークの棍棒が、俺の頭上で巨大な影を作る。死を覚悟し、俺は固く目を閉じた。
その瞬間、俺の体の内側で、ヴァレストの力が奔流のように駆け巡った。
ガギィィィィンッ!!
轟音、それは俺の骨が砕ける音ではなかった。
目を開けると、信じられない光景が広がっていた。俺がとっさに掲げた左腕。その一本の腕が、巨大なオークの渾身の一撃を、歯車を動かすかのような不思議な音と共に、真正面から受け止めていたのだ。
「な……」
俺自身が、何が起こったのか理解できずにいた。腕には、痺れ一つない。骨折どころか、痛みすらなかった。ヴァレストの力は俺の肉体を、もはや人ではない何かに変質させている。
「グウオオオオオオオオ!!」
オークは会心の一撃が止められたことに驚き、更に力を込める。だが俺は無意識に、その力を利用して腕を振り払った。
「うおおおっ!!」
その瞬間、オークの巨体は、まるで木の葉のように軽々と吹き飛ばされ、数メートル後方で派手な音を立てて地面に転がった。
「嘘、ロゼットさんが……オークを、片手で」
背後で、ラークスの呆然とした声が聞こえる。だが、感傷に浸っている暇はなかった。弾き飛ばされたオークは、すぐに体勢を立て直し、その血走った両目を、更に激しい怒りの色に染めながら俺を睨みつけている。俺は、振り返らずに叫んだ。
「二人とも逃げろ、ここは俺が食い止める!」
「何を言ってるの、あなた一人で、あんな化け物に勝てるわけがないわ!」
するとリーゼが、悲鳴に近い声で抗議する。
「いいから行け! これは俺の戦いだ!」
俺の覚悟を悟ったのか、リーゼは腰を抜かしているラークスの腕を引いて、後方へと下がり始めた。俺はラークスに対して、大丈夫だと言わんばかりに力強く頷いてみせる。
「ほら、行くんだ」
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