第11話 ゴブリンキング
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「行くぞ!」
「ええ!」
俺とリーゼは、戦場の真っ只中へと飛び込んだ。そして俺は、ヴァレストの力で強化された身体能力を解放し、ゴブリンの群れに風穴を開ける。次から次へと迫り来るのなら、次から次へと討伐すればいい。
リーゼは、その俺の動きを完璧に読み、俺が討ち漏らした敵や、側面から迫る敵を、正確無比な矢で次々と射抜いていく。俺たちが加わったことで、戦線はわずかに持ち直した。
だが、敵の親玉であるゴブリンキングは、玉座に座ったまま、嘲笑うかのようにこちらを見ているだけだ。その時、俺たちの後ろで、ずっと沈黙を守っていたラークスが一歩前に出た。
「ラークス、危ない!」
「もう、大丈夫です」
その瞳には、もはや森にいた頃の怯えはない。そこにあるのは、街を、仲間を、そして自分を信じてくれたミーナを守るという、燃えるような覚悟の光だった。彼女は俺に教わった通りに目を閉じて、一つのイメージを思い描いていた。
「温かいもの、それはミルクティー……じゃない」
彼女の心に浮かんだのは、穏やかで優しいイメージではなかったようだ。
「ミーナや、街の人たちを傷つける悪い奴は、絶対に許さない!」
それは悪を焼き尽くす、浄化の炎。正義の怒り。
彼女は目を見開くと、両手をゴブリンキングへと向けた。そして今まで誰も聞いたことのない、とても力強く澄み切った声で、詠唱を始めた。その詠唱には、淀み一つなかった。
俺とリーゼは、彼女の覚悟を感じ取り、左右に分かれて、彼女への道を切り開く。迫り来るゴブリンの首にショートソードを刺し、余った左手でゴブリンの首を掴む。それをリーゼが矢で突き刺し、続けて遠くのゴブリンを打つ。
「うおおおおお!」
「行きなさい、ラークス!」
ラークスの両手の間に、眩いばかりの炎の力が収束していった。彼女は完成した魔法を、高らかに叫んだ。
「焼き尽くされなさい……フレアバースト!」
彼女の手から放たれたのは、凝縮された太陽のような、巨大な火球だった。それは、他のゴブリンたちを薙ぎ払いながら、一直線にゴブリンキングへと突き進む。王は慌てて玉座から立ち上がり、棍棒で迎え撃とうとするが、遅かった。
ドカアアアア!!!
火球は、ゴブリンキングの巨体に直撃し、凄まじい爆発を引き起こした。轟音と、熱風が、戦場を吹き抜けた。爆発が収まった後、そこには、黒焦げになり、煙を上げるゴブリンキングの亡骸が転がっていた。王を失ったゴブリンたちは、混乱し、統率を失って逃げ惑っている。
戦いは、終わった。
戦場を支配していたのは、一瞬の沈黙だった。衛兵も農夫たちも、目の前で起こった光景が信じられず、ただ、呆然と立ち尽くしていた。
やがて、その沈黙を破ったのは、誰からともなく上がった一つの拍手だった。それが、二人になり、十人になり、やがて、その場にいた全員からの、心からの拍手と喝采に変わった。
「す、すごい……!」
「あの魔術師の女の子が、キングを一人で!」
「あんたたち……見直したぜ!」
賞賛の渦の中心で、ラークスは魔力を使い果たして膝をつきながら、自分の小さな手を見つめて、呆然としていた。その瞳からは大粒の涙が、次から次へと溢れ落ちていた。リーゼはそんな彼女の隣に歩み寄り、その小さな頭を、ぽん、と優しく叩いた。
「やりました、やりましたよ!」
彼女は顔を上げ、リーゼに向かって、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま最高の笑顔を見せていた。
「……助かった、礼を言う」
衛兵の一人が、気まずそうに俺に近づいてきて、そう短く呟いた。それは、北門で俺たちを侮辱した男だった。短くても分かる、これは昨日の偽りの感謝とは違うことを。
俺たちのパーティーは、今日、本当の意味で、産声を上げたのかもしれない。偽りの英雄の影の下ではなく、自らの力で、自らの覚悟で、人々を守る、本物のパーティーとして。その確かな手応えが、俺の胸を、熱く満たしていた。
翌日、俺たち三人は冒険者ギルドの中央ホールに呼び出されていた。ゴブリンキング討伐という、Cランクパーティーには到底不可能と思われた功績。その正式な報告と評価のためだ。
「おい見ろ、例のゴブリンキングの……」
「ああ、天下りにしては異例だな」
周囲の冒険者たちの視線が、昨日までとは全く違うことに、俺は気づいていた。侮蔑や嘲笑は消え、代わりに好奇心と、畏敬、そしてわずかな嫉妬が入り混じった、複雑な眼差しが突き刺さる。
特に、ラークスがゴブリンキングを焼き払ったという話は尾ひれがついて広まっているらしく、彼女が身じろぎするだけで、周りの冒険者たちがビクリと肩を揺らした。
「入れ」
ギルドマスターの執務室の扉から、重々しい声が響く。俺たちは、緊張した面持ちで中へと入った。
部屋の主であるギルドマスター・バルトロは、元Sランク冒険者だ。その鋭い眼光は、嘘やごまかしを一切許さない。
「オーク・ウォークライアーに続き、ゴブリンキングだと。しかも、お前たち三人で。にわかには信じがたい報告だが、衛兵隊と複数のパーティーからの証言が一致している以上、事実として認めざるを得んな」
バルトロは机の上の報告書に目を落としながら、唸るように言った。
「よって、ギルドは『暁の太陽』の功績を正式に認定する。規定に基づき、CランクからBランクへの、特例昇格を許可する。過程は省略だ」
「Bランク……!」
ラークスが、小さな悲鳴に近い声を上げた。通常、パーティーランクは一つずつしか上がらない。C+とB-を越えての階級特進は、前代未聞の栄誉だった。
「だが、勘違いするな」
バルトロは釘を刺す。
「お前たちの実力は、まだBランクには程遠い。特に、そこの補助魔術師」
バルトロの視線が、俺を射抜く。
「報告では、お前が剣を振るい、前線で戦ったとあるな。補助魔術師が、聞いて呆れる。パーティーの構成も、後衛二人と前衛がお前一人では、あまりに歪だ。いずれ、その無茶が命取りになるぞ」
「……肝に銘じておきます」
俺が頭を下げると、バルトロは鼻を鳴らした。
「まあいい、功績は功績だ。これはギルドからの褒賞だ。受け取れ」
彼が差し出したのは、ギルドの武器庫の鍵だった。
「お前のその奇妙な戦い方に、その小さな剣は見合わんだろう。好きなものを一本、持っていくがいい。Bランクパーティーに、相応しい得物をな」
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