第29話 申請が処理されない
夢野真穂(魔法少女プルシェリア)
クラス:魔法使い +使い魔イルカの「フリッツ」
HP:普通、MP:高い、STR:貧弱、VIT:根性無し、DEX:不器用、INT:低め、AGT:どんくさい
佐伯瑠
クラス:狩人 +レッドホーク357マグナム
HP:高め、MP:低い、STR:高め、VIT:高い、DEX:凄腕、INT:低め、AGT:素早い
たかが市民登録。そんなものはすぐに終わるだろうと思い毎日役場に通っているのだけど、言われる事は毎回同じ。
「他にも登録作業はあります。順番で処理していますので、処理が終わるまでお待ちください」
まるでそういう回答マニュアルがあって、その通り読んでいるかのように、窓口の人が変わっても寸分違わぬ回答をされる。「でしたら、いつくらいになるのか教えて」と申請するんだけど、それに対する回答も毎回全く同じで「登録にかかる時間は一件一件異なるのでわかりません」というもの。
「ただいま帰りました。申し訳ありません。今日もできてませんでした……」
毎回毎回この報告をしなければいけないのが本当に心苦しい。最初は仕方ないよという感じの堀尾さんだったけど、徐々に報告を聞くたびに不快感を表に出すようになってきている。この日も、低い声で「だろうね」と返してきた。
「あの、本当に申し訳ありません。本ナンバーが貰えたら、この御恩は必ずお返ししますから」
「別に夢野さんに対して怒ってるわけじゃないよ。どうやら報告は本当らしいってわかって怒ってるんだ」
「報告?」
「実はね、先日、昔世話した者が知らせてくれたんだよ。後回しになるように毎朝君の申請書の順番を入れ替えてるんだって。役場の奴が酒場で酔っぱらってそう言って笑ってたのを聞いたんだとさ」
どうりで。それは何日通ったって申請が通らないはずだわ。あの時のバーコードハゲ、ホントに許せない! 魔法でゴブリンに変えてやろうかな。いや、ウリ坊が良いかもしれない。でも、知らずにあのハゲの肉を食べちゃう人がいたらその人が可哀そうか。
……ん? 何か忘れている気がする。何だろう? まあ、すぐに思い出せないって事は大した事じゃないんでしょ、きっと。
「だけど安心しなさい。原因がわかれば対処は簡単だから。明日か明後日には申請が通るんじゃないかな?」
「あの、試みに聞くんですけど、どんな対処をしていただけたんですか?」
すると堀尾さんは待ってましたとばかりに非常に悪い笑顔を浮かべた。少なくとも私がここに来てから、堀尾さんのこんな悪い笑顔は初めて見た。
「知り合いの吟遊詩人にお願いして、役場の前で服務規程違反を働いている役人がいるって歌を歌ってもらうように依頼しておいた」
「……それが何になるんですか? 役場の前で独演会するようなものですよね?」
「この世界の吟遊詩人ってのはね、前の世界でいうマスコミだよ。不正が拡散されたら市民は黙っていられないさ。それも、ここにいる住人の多くは気の荒い冒険者だ。役人ってのはそんな彼らが命懸けで稼いだお金を掠め取ってる奴らなんだぞ」
冒険者は全員武器を手にしているので、最悪の場合暴動になる。警備隊もいるのだけど、熟練の冒険者ほど手練れじゃないから集団で来られたらお手上げ。市長も市民の要望に耳を傾けなかったら簡単に裏通りでゴミになる。だから実はこの手の話は役場にとっては致命的なやらかしだったりするらしい。
「明日からは役場に行かず、うちの畑の世話でもしていたら良いよ。きっと向こうから跪いて本ナンバーのカードを収めにやってくるだろうさ。それを許すか否かは、もはや君次第だ」
クククと悪代官のような笑い声をあげる堀尾さん。その笑い方、そして手口、多分この人は怒らしたらダメな人だと思う。
◇◇◇
果たして三日後。堀尾さんの畑仕事を手伝っていると、あの時のバーコードハゲが焦燥しきった顔で本ナンバーのカードを『収めに』やってきた。しかも謝意のお菓子付きで。
堀尾さんは許すか否かは私次第って言ってたけど、当然、許すという選択肢にカーソルは合わない。
「何でこんなに申請の登録に時間がかかったのか理由が聞きたいのですけど」
「それは、根本的な話として昨今の慢性的な人手不足が大いに起因していまして、一人一人の業務の煩雑化がそれに拍車をかけ、さらには昨今働き方の改革という事も言われており、各人の業務の時間も限られています。その為、一日に処理できる業務に限界が生じ――」
「ちょっと何言ってるのかわかんないんですけど」
遠回しにグダグダ長く喋っているだけで、結局何が言いたいのかまるっきりわからない。ザ・お役所答弁って感じ。
「吟遊詩人さんのおかげで、何があったのかはこの町の人たち全員知ってるんですよ。それって謝罪する姿勢ですか? 仕方なく来てやったみたいな態度なのでしたら帰っていただけませんか? 腹が立つだけなんで」
「そこを何とか、この菓子折りで曲げてはいただけませんでしょうか?」
「菓子一つで誤魔化せると思われてるのが余計に腹立たしいです。それもどうせ税金なんでしょ?」
『税金』という単語に、バーコードハゲはビクリと体を震わせ、たらたらと脂汗を垂らした。ここまで黙って様子を観察していた堀尾さんが、ニッと悪魔のような笑みを浮かべてバーコードハゲの肩に手を置いた。
「わかったら出直して来い。ああ、お前はもう役場をクビになるんだろうから来れないか。でも自業自得だろ。後輩巻き込んで嫌がらせしたんだからな。帰ったら上司によく言っておけ。部下の監督もまともにできないのかってな」
何故か勝ち誇ったように高笑いする堀尾さん。「さっさと出て行け」と言って摘まみ出してしまった。
「ここのところ、役場の奴らの増長が目に余るって声をよく聞いてたからな。今回の件は良い薬になるだろう」
「あの、堀尾さん。もしかしてさっきの方の上司の事ご存知なんですか?」
「あんな奴の上司の事なんか知らんよ。だけど市長の事ならよく知ってる。何せ、かつて一緒にパーティを組んでダンジョン攻略に挑んでいた仲間だからな」
市長さんは五藤さんというらしく、パーティのリーダーで当時の職業は戦士。堀尾さんは斥候。それと魔術師の徳島さん、狩人の中根さんの四人パーティだったのだとか。
……まさか堀尾さんがそんな地位の人だっただなんて。
「申し訳ないんだけど、そういう仲なんでさ、次に説明に来るのがあのハゲじゃなかったら、許してやってくれないかな」
「前向きに検討させていただきます」
官僚答弁で回答したのが可笑しかったらしく、堀尾さんはしばらく笑い続けていた。
よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。




