第28話 初めての安息
夢野真穂(魔法少女プルシェリア)
クラス:魔法使い +使い魔イルカの「フリッツ」
HP:普通、MP:高い、STR:貧弱、VIT:根性無し、DEX:不器用、INT:低め、AGT:どんくさい
佐伯瑠
クラス:狩人 +レッドホーク357マグナム
HP:高め、MP:低い、STR:高め、VIT:高い、DEX:凄腕、INT:低め、AGT:素早い
すでに時刻は遅く、結局お昼も食べ損ねてしまい、役場でいびられ、宿も見つからなかった。お腹も空き、何かに失敗したような敗北感に苛まれ、ボッキリと心が折れてしまっていた。
「大変だったみたいだね。ここにいる間はゆっくりしてくれたら良い。食事を温め直しておくから、その間に風呂に入ってきなさい」
堀尾さんの優しい言葉がじんわりとひび割れた心に染み込んでいく。自然と頬を涙が伝っていた。しかも止めどもなく溢れ出てきてしまう。足からふわっと力が抜けてしまって立っていられなくなってしまった。
玄関にへたり込んでしまった私の腕を、堀尾さんは何度も擦って心を鎮めようとしてくれた。それがまた心に沁みて涙が溢れてきてしまう。
「さあ、ゆっくりお風呂に浸かって体を温めておいで。体が温まれば色々と頭の整理もできるだろうから。その後でゆっくりお話をしよう」
堀尾さんが体を支えてくれて、浴場へ連れて行ってくれた。三和土の上に素焼きのタイルが敷かれていて、その横に木をくり抜いた湯舟。湯舟の横に一斗缶のようなものが置かれ、薪がくべられている。その上に何やら鍋のようなものが置かれ、湯が沸いている。湯舟の横には柄杓。
最初、どういう仕組みなのか悩んだ。どう考えても湯が温い。しばらく我慢していると、鍋に不自然に付いている注ぎ口から沸騰した湯が零れるのが見えた。
なるほど。この柄杓で湯舟から湯を鍋に注ぎ入れると熱い湯が湯舟に注がれるのね。そして少し温度の下がった鍋の湯は熱せられて高温になる。それで温め直しができると。
きっと湯沸かしの時には横にある銅の棒を湯舟に入れて、鍋をどかして、火で棒を熱するんだろうな。このシステム考えた人、頭良いなあ。
はあ、温まる……
洞窟の中で魔法で作ったお風呂とは何かが違う。快適さで言えば向こうの方が断然上なんだけど、こちらの方が心が温まる気がする。
風呂から上がると大きなタオルが畳んで置かれていた。魔法少女の服はどういうわけか汚れない。恐らく魔法で作り出した物だからだと思う。
風呂に入る前と全く同じ服装で浴室を出ると、ほんのりと優しい味噌の香りが漂っていた。
「どうだい? 少しは落ち着いたかな?」
「はい。おかげさまで」
「それは良かった。急なお客さんだからな。申し訳ないが今日はこんなものしか出せないが、かんべんしてくれ」
机の上を見ると、温め直した白葱の味噌汁、海苔の巻いていないおにぎり、黄色い沢庵、そして何やら味噌の塊が用意されていた。
低い机に座布団が敷かれ、そこに正座して、まずは味噌汁を一口。優しい味が心の芯まで沁みていく。そしておにぎり。少し冷めたご飯が握られているだけで、具も無い。単なる塩むすび。なのに非常に懐かしい味がする。味噌の塊は何だろうと思っていたら、よく道の駅なんかで売っている大葉味噌というやつっぽい。どれもこれも素朴で美味しい。
考えてみたら、どれだけ魔法で見た目と味を変えても、実際にはウリ坊の肉を焼いたブロック肉と単なる水。本物の料理に敵うわけがない。
妙な敗北感を抱き自然と涙が零れる。
「それを食べたら、今日はもう寝ちまいなさい。起きたらゆっくりと話をしようじゃないか」
堀尾さんに言われるがまま、食事を終えた後は、すぐに敷かれた布団に横になった。横になってすぐに意識はぷつりと途絶えてしまったのだった。
◇◇◇
朝、小鳥のさえずりで目が覚めた。
視界が明るい。こんな目覚めはこの世界に来て初めての事。それだけでなにやらホッとする。
「あ、堀尾さん、おはようございます」
「はい、おはよう。どうだい、よく寝れたかね?」
「おかげさまで。久々にゆっくり寝る事ができました」
「それは良かった。すぐに朝食にするから、食事を取ったら話を聞かせてもらおう」
すでに朝食の用意ができていた。茄子の味噌汁を飲み、ご飯を食べ、お新香を齧る。美味しい……。
魔法で色々できるからって、贅沢な物ばかり作ってたけど、本当はこういう日常の食事が一番美味しいんだという事を実感してしまう。
一通り食事を終えた後、お茶をひとすすりして、ここまでの事を全て堀尾さんにお話した。
「なるほどね。実はここのダンジョンは、日本から転生してきた人が送られるダンジョンらしいんだよ。だからってここが日本だって言うわけじゃないんだ。ここが大陸なのか島国なのかはちょっとわからないけどね」
「どうりで。日本風の建物ばかりなはずですよね。じゃあ堀尾さんも?」
「そうだね。大昔にここに飛ばされて来た一人だよ。昔は俺も冒険者をやってたんだ。今はもう引退して年金暮らしだけどね」
年金とかあるんだ……
ちょくちょくこういう前の世界の用語が出てくるせいで、全然異世界に来たって気がしないんだよね。
「あの……私はこれからどうすれば良いんでしょう?」
「そうだなあ。本ナンバーができるまでゆっくりしたら良いんじゃないか?」
「でも、それだとお金が……」
「ああ、文無しなんだっけ。そう言えば、ここに来るまでに魔石って拾わなかった? もし拾ったんなら一緒に売りに行こうか。本ナンバーが無いと君だけでは買い取ってもらえないからね」
また本ナンバー……佐伯さんに役場で市民登録しないと何もできないって言われてたけど、魔石の買い取りすらしてもらえないだなんて。もう本ナンバーって単語を聞いただけで気が滅入ってしまう。
「あの、一つ伺いたいんですけど、魔石って何にするんですか?」
「石から魔力を取り出して活用するんだけど、イメージだと電気やガスみたいなものって思えばわかるんじゃないかな?」
「なるほど。エネルギーの素って事なんですか。じゃあ何でそれを売るのに市民登録が必要なんですか?」
「それは簡単な話だよ。所得税を払ってもらうために収入を把握しておかないといけないからだよ。『納税は市民の義務です』って講習受けたでしょ」
……どこまでも前の世界を引きずられてて、ホントにげんなり。もうさっさとダンジョンに潜りたいです。ダンジョンが恋しい。
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