第27話 申請が受理されない
夢野真穂(魔法少女プルシェリア)
クラス:魔法使い +使い魔イルカの「フリッツ」
HP:普通、MP:高い、STR:貧弱、VIT:根性無し、DEX:不器用、INT:低め、AGT:どんくさい
佐伯瑠
クラス:狩人 +レッドホーク357マグナム
HP:高め、MP:低い、STR:高め、VIT:高い、DEX:凄腕、INT:低め、AGT:素早い
「夢野真穂さんね。職業は魔法少女? ああ、これだとダメですね。はいこれ、職業一覧の紙、これあげますので、よく読んで、自分に合うと思うものを選んで、もう一度申請書を書き直してください」
佐伯さんの案内に従って、まずは市民登録をしようと役場に来たのだけど、頭がバーコードのおっさんから絶賛嫌がらせを受けている。
ダンジョンから出て真っ直ぐ役場に来たのだけど、最初に声をかけた窓口では「その窓口はここじゃない」と言われて別の窓口を案内され、案内された窓口でも同様に別の窓口を案内され、さらにその窓口でも別の窓口を案内され、最終的に最初の窓口に戻って来た。挙句の果てに「あなたの説明が悪いからわからなかった」という言い訳というか責任転嫁。
「この書類に必要事項を記載してください」と一枚ペロッと紙を渡され、書き方のわからないまま何とか項目を埋め提出。すると、もの凄く待たされた挙句、「一か所記述の仕方が間違っているから書き直してください」と言われて、また新しい申請書を渡された。そして記載している途中で終業時刻だからと全員帰ってしまったのだった。
その後、佐伯さんの契約している冒険者の宿で食事をとり、朝まで呑み、もう一度役場に来たのだけど、バーコード頭のおっさんは「その窓口はここじゃない」と申請書の受け取りを拒否。
「昨日の今日で窓口が変わるわけないでしょ」と大声を張り上げてやったら、おっさんはギロリと睨んできて、申請書の職業の箇所に朱色の鉛筆でレ点を入れて先ほどの指摘。
「あの……これ昨日もダメだって言われて、その箇所を訂正して書き直したものなんですけど」
「別のところがダメだったんですから、そっちを直して再提出をお願いします」
「だったら! 昨日最後まで目を通して、ダメな部分を全部指摘してくれたら良かったじゃないですか! その職業一覧の紙だって昨日くれたら良かったじゃないですか!」
さすがに我慢にも限界というものがある。怒りに任せてカウンターに拳を叩きつけたら、バーコード頭のおっさんはその無表情な顔をくいっと上げてこちらを見てきた。
「市民登録したいんですよね? でしたら修正して提出し直してください。たかだかもう一回書き直すだけでしょ? 暴力に訴えて脅迫しようと言うのなら警備隊に来ていただく事になりますが、そちらをお望みですか?」
「何でそうなるのよ! こっちは単にいっぺんに指摘してって言ってるだけじゃないですか!」
「こちらの言う内容で提出されなかったら、いくら出してきても処理できないだけの話です。それで困るのは私たちではありませんよ」
ぐぬぬぬ。腹立つ!
自分たちが偉いんだっていうマウントを取るために利用者に嫌がらせしてくるとか! 典型的なお役所仕事じゃん。ふう! ふう! ふう!
鼻息荒く興奮冷めやらぬ私を見て、佐伯さんが私の肩にそっと手を置いた。同情的な目でこちらを見ている。
「まあ、まあ、真穂ちゃん、落ち着いて。あいつらは黙って言う事聞いてやってれば無害な連中なんだからさ」
「二回書き直しさせられている時点で実害は出てます!」
「まあ、まあ。じゃあこう考えなよ。ああいう嫌がらせをする事でしか自分の存在価値を示せない悲しい生き物なんだってさ」
……なるほど。可哀そうな人ね。残念な人なんだと思えば、確かに怒りよりも憐みが沸くかも。なるほどね、頭の出来の残念な人だからいっぺんに指摘ができなくて一つ一つになっちゃうんだ。しょうがない、付き合ってやるか。だって相手は可哀そうな頭脳の人なんだもん。
結局、この後なんだかんだで七回も書き直しをさせられた。六回目の時に露骨に残念な人を見る目で見て、「訂正箇所が一か所しか見つけられないなんて可哀そう」と呟いてやったら、額に青筋を浮かべて大量に修正点をあげてきやがった。こんな事ならもっと早くそう言ってやれば良かった。
「あの市民登録には程度かかるんでしょうか?」
「登録にかかる時間は一件一件異なるのでわかりません。その間は仮登録という形になります。では、登録証を発行するので市民講習履修証明の提出をお願いします」
「市民講習? なんですかそれ?」
「はぁ……」
バーコード頭のおっさんはわざとらしく特大のため息をついて、対面カウンターをペンでトントンと叩き始めた。
転生前のあの上司もよくそうやって威嚇してきたんだよね。あの頃を思い出したら胃がキリキリしてきちゃった。
「市民サービスを受けるには、ちゃんと義務をはたしてもらわないといけないんですよ。この窓口でいちいち説明したら時間をとってしまうので、別会場で講習を開いてるんです。ですので、まずはその講習を聞いて来ていただけますか?」
「わかりました。会場はどちらに?」
「役場を出て右手の建物です。行けば小さい子供でもすぐにわかると思いますよ」
一応礼を述べて、すぐに窓口を立ち去った。佐伯さんに市民講習の話をすると、「やっとそこまでいったのか」と呆れ口調で言われ、会場に案内してくれた。
ところが……
「え? 有料なんですか?」
「ここは市の正規サービスではなく、市から業務委託を受けた民間事業ですので」
「ですけど、ここで講習を受けないと市民登録できないんですよね?」
「嫌なら役場で市民認定試験を受けてください。申請すれば一月後に受けられますので」
ちなみに本ナンバーも市民講習履修証明がないと発行してもらえないらしい。こうなってくると、登録に半月かかるのも、市民講習を受けないといけないのも、全ては役場が天下り企業から受講料の一部をせしめるためのセコイ手段に見えてきてしまう。
残念ながら私は一文無し。仕方なく佐伯さんに借金をして市民講習を受ける事になった。
◇◇◇
朝一番で役場に向かったのだけど、結局、仮ナンバー発行までに丸々半日かかってしまった。申請書の書き直しで昼食もとれていない。お腹が空いたと佐伯さんに言ったのだけど、「宿の契約の後で」とぴしゃりと言われてしまった。
その理由は冒険者の宿に行って判明した。
「え? 仮ナンバーなんですか? 申し訳ないですね。うちは本ナンバーの方しかお泊めできない決まりになっているんですよ」
「半月ほどで本ナンバーは支給されるそうですから、その時にはちゃんと本ナンバーを提出しますから」
「ああ、そういうのダメなんです。申し訳ないですけど他を当たってください」
値段的なものを考えて、かなり古い宿をたずねたのだけど、まさかの仮ナンバーというだけで門前払い。まさに取り付く島もないといった感じ。ここでこれだと、仮ナンバーでも泊めてくれる宿ってどんな悲惨なところなんだろう……
もう陽が落ちてかなりの時間が過ぎている。町の明かりもぽつぽつと消え始めている。
十一軒目の冒険者の宿で断られたのを見た佐伯さんが、仕方がないと言って付いて来るように言った。冒険者の宿が連なる一画から狭い路地を入って行ったボロボロの建物が連なる一画に足を踏み入れる。周囲は街灯も無く真っ暗。その中でもかなり年季の入った古民家の前で足を止めた。
ガラガラと音をたてて引き戸の玄関を無造作に開ける佐伯さん。
「います?」
……え? 勝手に玄関を開けて入ってちゃったけど、これって住居不法侵入なのでは?
おろおろしていると、「誰だい?」という声が奥から聞こえてくる。ぬっと背の低い一人の老人が顔を出した。左手には護身用だろうか鞘に納められた諸刃剣を持っている。
「なんだ、瑠君かい。どうしたんだい?」
「悪いんだけど堀尾さん、この娘を泊めてやっちゃくれないか? 市民登録申請したんだけど、役場の嫌がらせで本ナンバーを発行してもらえなかったんだよ。おまけに宿はどこも役場の手がまわってて、仮ナンバーじゃあ契約してくれなくてさ」
「そうなのか。あそこは相変わらずだな。まあ、お前さんの頼みだ。本ナンバーが発行されるまでうちで面倒見てやるよ。ただし、金はちゃんと貰うよ」
「安くないぞ」と言って笑う堀尾さん。「お手柔らかに」と揉み手で愛想を振りまく佐伯さん。この佐伯さんの態度。どうやら何か負い目があるらしい。
「それと堀尾さん、悪いんだけどその娘まだ文無しなんだ。だから……」
「わかってるよ。ここに来るのは皆そんな人ばかりだからね」
「じゃあ俺は宿に戻るから、万事よしなに頼むよ。今度、ダンジョンでお宝を見つけたら納品に来るからさ」
「あいよ。期待せずに待ってるよ」
佐伯さんは私ではなく堀尾さんに手を振り、私を残して去ってしまった。
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