第30話 佐伯さんは不機嫌
夢野真穂(魔法少女プルシェリア)
クラス:魔法使い +使い魔イルカの「フリッツ」
HP:普通、MP:高い、STR:貧弱、VIT:根性無し、DEX:不器用、INT:低め、AGT:どんくさい
佐伯瑠
クラス:狩人 +レッドホーク357マグナム
HP:高め、MP:低い、STR:高め、VIT:高い、DEX:凄腕、INT:低め、AGT:素早い
「ジャジャーン! 大変長らくお待たせいたしました。やっと私もナンバーカードを取得いたしましたよ!」
ピッカピカのナンバーカードを見せると、佐伯さんはいかにも面倒臭いといった態度で「良かったね」と返して来た。
それもそのはず、地上に出て、堀尾さんの家で別れてから、気が付けば半月が経過している。その間、佐伯さんは、いつ終わるかわからない市民登録を待って、ずっと冒険者の宿で無駄に時を過ごさせられていたのだから。
いや、でも私が悪いわけじゃないですから。役場のバーコードハゲが悪いんですからね。
ナンバーカードがあれば貸金庫が借りられる。貸金庫屋は民間企業なんだけど、公共性が高いという事で補助金が出ているのだそうだ。そのせいで、貸金庫屋は市に数軒あるのだけど全て役場から歩いて数分の距離にある。さっそく貸金庫の口座を作り、冒険に出かける最低の準備が整ったところで、佐伯さんが入り浸っている冒険者の酒場へ向かった。ちなみに冒険者の酒場も市内に数軒あるのだけど、貸金庫屋と同様、公共性の高さから補助金が入っていると堀尾さんが説明してくれた。
でも、想定を大幅に越えて遅れてしまったのは事実。さすがに後ろめたさ的なものは感じる。だからこうして精一杯愛想を振りまいている。
なのに佐伯さんたら全然つれない態度を取り続けている。
「今日は、あのピンクの痛々しいフリフリの服じゃないんだね」
「痛々しいって……私だって着たくて着てたわけじゃないんです! 魔法少女の能力とセットだから仕方なく着てただけです!」
……だって素っ裸だったし。性別の関係で、こっちは佐伯さんみたいにゴブリンから腰巻奪ってそれで良しというわけにはいかないんですよ。
「ふ~ん。で、その恰好でダンジョンに潜るの? ワンピースにパンプスだと、数日で疲れちゃったりするんじゃないかなあ」
「これはあくまで地上にいる時の恰好ですよ。洞窟に入る時はあの恰好するしか無いですもん。せめて地上にいる時くらいはお洒落したいじゃないですか」
「そういうもんなのかね。まあ、考えてみたら魔法少女の恰好もお世辞にも冒険に適した格好とは言い難かったもんな。そう考えたら別に気にする事じゃなかったかもな」
……こりゃ相当お怒りみたいね。
ん? 佐伯さんの額に何やら引っ搔き傷が?
あっ! やばっ! あの額の輪っか付けたままだった。しかも私、まだ変身を解いてないから、佐伯さん、あれからずっとあの輪っか付いたままだったんだ……
「あの、その額の――」
「俺はさ、結構ここまで良くしてやったと思うんだよね。役場の奴の態度を見てさ、これはマズイと思ったから堀尾さんのとこに預けたりしてさ。なのに真穂ちゃん、これ取ってくれないんだもんな」
「す、すみませんでした……」
「おかげで地上に帰って来た時のお楽しみのお店にも行けやしねえ。酒場でお姉ちゃんと楽しくやろうとしても、これのせいで楽しめない。なんでこんな罰を受け続けなければいけないんだろうね」
そのじっとりした目でこっちを見ないで欲しい。それと恨みがましくブツブツ喋るのもやめて欲しい。
「私の宿泊所は知ってるわけですから、来ていただければよかったんじゃ……」
「あん? 俺が悪いっての?」
「いえ、決してそういうわけでは……」
やばい。何とかして話をそらさないと。このままだと私の心が持たない。
「あの、佐伯さん。例の奏さん。彼女をお助けするために洞窟に潜りましょうよ。私、堀尾さんから聞いたんです。中層のどこかに世界樹っていう大きな樹が生えてて、その葉から死者を蘇生する事ができるって」
「うん。死んだ奴はね」
「へ?」
「厳密に言うとスケルトンは死者じゃないんだよ。それと中層に行くにはボスを倒さないとダメなんだけど、そこはどうするつもりなんだ? 俺は役立たずだぞ。真穂ちゃん一人でどうにかできる?」
魔法で卵に変えちゃえば。でも、絶対圧倒的にボスの方がレベルが高いわけじゃないですか。そんなのいつになる事やら。生き返らせられる方法を聞いただけでやれる気になってたけど、よく考えたらビックリするくらいハードルの高い話だったのね。
「そもそも、俺だって堀尾さんと面識があるんだぜ。そんな情報とっくに仕入れてるとは思わなかったかい?」
「で、ですよね~」
笑っとけ、笑っとけ。もう、笑って誤魔化すしかない。もう私の手札にはカス札しか残ってないのよ。ターンエンド。
「どっちにしても中層にはいかないといけない。だからちょっと前にパーティメンバー募集の貼り紙を貼っておいたんだ。残念ながらまだ誰も来てくれないけどな」
「ああ! 聖職者の方を連れて行けば!」
「あのね、真穂ちゃん。あの方たちは、その魔法一つで食って行ける方たちだぞ。自分で寺を開いて、そこで患者を診てお布施を貰ってる方たちだぞ。それで充分稼げるのに、危険なダンジョンなんかに入っていただけるわけねえだろ!」
そう言えば、ここに来る途中でそれっぽい話を聞いたような……
思い出した。あの時のキャンプの役場の出張所の時だ。この世界の聖職者は前の世界で言う医者。高給の方たちだから仮にスケルトンになった奏さんを成仏させて欲しいというだけでも、かなりの金額がかかるって。ましてや蘇生ともなれば、どれだけのお金を積まないといけないかわからないって。
「だ・か・ら、聖職者に頼らずに奏を元に戻す方法をずっと探ってるんじゃんか」
「で、その方法のために中層に行く必要があるんでしたよね」
「そうだよ。思い出してくれた? 頼むよほんと」
……やばっ。ブラック上司にいびられていた時の事を思い出して胃がキリキリしてきちゃった。このままだと私、吐くかも。あ、やばい。あの頃の事を思い出して涙出てきちゃった……
「え!? ちょっ! 真穂ちゃん? ごめん。ちょっと強く言い過ぎたかな」
「そうじゃないんです……上司に毎日いびられてた事を思い出しちゃって……」
「すまなかった。辛い過去を思い出させちゃって。だけど、そんなトラウマになるほどって、どんな酷い職場環境だったんだよ……」
優しくされるとそれはそれで惨めというか。あの辛かった日々が次から次へと思い出されちゃって、無意識に体が震えてきちゃった。そんな私の背をさすって必死に心を落ち着かせようとしてくれる佐伯さん。おかげで徐々にだけど心が落ち着いてきた。
ふと顔を上げると、酒場の主人が壁の燭台の蝋燭に火を灯して行くのが見えた。
「もう今日は遅いからさ、明日もう一度この酒場に集まる事にしようか。そこで中層に行くための作戦を練ろうよ」
「そうですね。あ、じゃあその輪っか外さないと」
腰に下げているマジカルスティッキに手をかけた時だった。二人の机に大きな人の影が映った。
「もしかして、お取込み中でしたかな?」
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