似たようなことを彼女にしたことがある
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最近ブレッドさんの雰囲気が変わった。
例のオムライスの一件以降、どこか冷めた感じというか、沈んでいる。
一休みしていても、ご飯を食べていても、その瞳に以前のような輝きは感じられない。
彼女がバーのマスターに話を聞きに行ったあの夜に何があったのだろうか。帰ってきた彼女は、母親の手がかりを見つけたからとある街に向かいたいとしか言わなかった。
ブレッドさんは…。
ブレッドさんは、恐らく家族を欲している。時折母親や自分の過去について話すその時の眼は、彼女が自分で言うほど憎しみがこもっていない。それは例の件があった夜もそうだった。
口では色々言っているが、心の中では母親を求めているのだろう。子どもの頃にもらえなかった愛情を、今からでも欲しいと思っているはずだ。
だが今の彼女の冷たい瞳からは何か諦めのようなものを感じる。母親の人間性がダメだということでも聞かされたのだろうか。実は犯罪を犯していたり?
…そもそも娘を置いていなくなる人間が、良い人間であるわけないか。
「あれ、シロカ。どうしたの?」
考え事をしていたせいか、気がつけば目の前でブレッドさんが私の顔を覗き込んでいた。そういえば、似たようなことを彼女にしたことがあるような。
「何でもないです」
「何でもなくはないでしょ?」
「確かに何でもなくはないですが」
貴女がそんな様子だから悩み事が増えてるんですよ。
「悩み事?相談に乗ろうか?」
「いーえいえ結構です。大丈夫なんで」
「寂しいことを言うねぇ。たまには頼ってくれても良いんだよ?」
それはこっちの台詞だ。貴女こそ、もっと弱みを見せるべきだ。
…いや、もちろん私にも非はある。彼女がその弱みをさらけ出せるように、私ももっと頑張らなくては。
そのためには。
「いい加減、文字を読めるようにならないと」
日付が変わりそうな深夜の中。焚き火の前で本を広げてそう呟いた。
こちらの世界に来て半年以上経過した。初めはそこそこ戸惑っていたこの世界の仕組みにも大分慣れたと思う。うぃんどうだけは、未だに出すことができないが。
しかし読み書きは別だ。元から勉強は得意じゃないが、独学はさらに難しい。時折ブレッドさんに教えてもらってはいるが、そもそもの文字の読み方などを習っているうちに時間が過ぎていってしまう。
だがこの半年でようやくそれも覚えた。後は文法やら単語やら。幸い名詞などは私の世界と同じなので、単語の方は綴りさえ覚えれば何とかなりそうなのだが。
「私の世界の言葉とこの世界の言葉とを翻訳できる辞書とかあればいいのに」
ま、それがあれば苦労しないのだけど。
ふと隣で眠っているブレッドさんへ目を向ける。今夜は私が一晩中見張りの日だから、彼女はもう夢の世界にいた。柔らかい寝顔だ。
「夢の中だけでも──」
どうか、いい思い出に浸れていますように。
星に願いを込め、私は再び図書館で借りた本に視線を戻した。




