母が結婚した
母が結婚した。
アタシを置いて、一人にさせた後で、知らない男と家族になった。
自分だけが、新しい人と幸せになろうとした。
どうして。
「大丈夫ですか」
連れてってくれれば良かったのに。邪魔なんてしないのに。
アタシはただ、ママと──。
「あの、本当に大丈夫ですか」
そこでようやく視界が戻った。目の前ではおじさんがアタシを心配そうに覗き込んでいる。
えぇと、何の話をしていたんだっけ。ぐちゃぐちゃになった頭を押さえて混乱した記憶を整理する。
あぁ、そうだ。この人は母の手がかりになるかもしれない人だ。彼がレシピを教わったという人は多分母だ。
「取り乱しました。もう大丈夫です」
「なら良いのですが。…すみません。やはり伝えるべきではなかった」
「良いんです。それで、このレシピを教わったレストランの場所、教えてもらって良いですか」
「えぇ。地図はお持ちですか?」
アイテムボックスから地図を取り出してマスターへ手渡すと、とある街の部分にペケ印を付けてくれた。現在位置から見ると確かに遠いが、道中に幾つか街がある。これなら問題なく行くことができるだろう。
問題はシロカから了承を貰えるかどうかだが。旅の行き先は基本アタシが決めているとはいえ、今回はアタシの私用が目的だものな。ちゃんと相談しておかないと。
残りのオレンジジュースを飲み干してマスターにお礼を伝え、情報料としてお金を渡そうとするが断られた。アタシを傷つけたからだそうだ。勝手にアタシが混乱しただけなのだから断られる筋合いはないのだが、貰うもらわないの話をしているだけで段々と夜が終わっていくので、結局は何も渡さないで店を出ることとなった。
「再婚、かぁ」
冷える深夜の帰り道。寒さを感じながら宿屋への道を歩いていた。頭の中にあるのは、もちろん母親のこと。落ち着いたつもりではあったが、一人になるとついつい考え込んでしまう。
母は貧乏な生活は嫌なのだと思っていた。だからアタシを養うことを止め、一人で生きることを選んだのかと。だがそれでも結婚したというのならば、それはもう。
「お金目当ての結婚、だよね」
そう思うことで、アタシは母を思い続けることができる。憎しみという感情で、それでも親子なんだと思い続けることができる。
だってもし、恋愛感情で再婚したのならば。
やはりアタシは愛されてはいな──。
「あ」
気がつくと目の前に宿屋があった。
…これ以上考えるのは止めておこう。部屋まで辿り着くと、ベッドへ倒れ込むようにして就寝した。




