この感覚は何だ
30分だけ寝ようとすると5時間くらい寝てしまう土曜日…。
「花を持ってきました」
モンスターを倒し、山奥にあった青い花を摘んだ私たちは例の薬屋へとやってきた。以前ここを出るときは固まって動かなくなっていた老人も、今は普通に動いている。
「これがナタァカイセって花ですか」
「ふぅん」
テーブルに置いた花を手に取り、老人はジロジロとそれを見つめる。しばらくそうした後、やがて首を縦に振った。
「…あぁ。この花がナタァカイセ、薬に使っていた花だ」
「そうですか。では重ねて質問させてください。これで作れる薬は、風邪以外にも様々な病気を飲むだけで治せる薬ですか?」
「あぁ。よく知っているね」
「それを知っているから、探させたんでしょう」
私は剣の柄を握りながら老人に詰め寄った。
「シロカ?」
「貴女の正体を聞かせてください」
「薬屋の婆さん。という答えじゃあ、納得しなさそうだね」
「えぇ」
彼女について気になる部分は色々あるが、一番引っかかるのはこの花の名前だ。彼女が言うナタァカイセの花はこの世界には存在しない。シンさんの言う通り名前が異なるのだ。その証拠に、ここに来る前に摘んだ花を以前に寄った薬屋や花屋に持っていったところ存在を知っていた。
質問をすると、この花の名前も、花言葉や花に関するエピソードの中にも「ナタァカイセ」という単語は出てこないからわからなかったと言われたのだ。
「この花の名前、どの人物に聞いてもナタァカイセと言わないらしいです。そんな名前はどこにも存在しない」
「…ほう」
「そしてこの花、一般に流通しているものではないらしいんですよね。かと言って取りに行こうとすると道中にモンスターがいたりする。貴方が直接採取しに行っているとは思いにくい。さて、貴方はどうやってこの花を手にして薬を作ったんでしょうね」
薬屋としての彼女の腕は確かなものだろう。しかしその薬を作るために何をしているのか。外部の人間を雇っているのか、それとも。
「貴女、ローブで顔が見えませんが。その顔を見せてもらっていいですか?」
こいつの正体は、もしかしたらただの老人ではなく──。
そう思ってローブに手を伸ばしたところ、私は老人にガシッと手を捕まれた。この力、とても年老いた人間のそれではない。
「あんたやっぱり──!」
「おっと」
握っていた剣を引き抜き構えた途端、老人はアクロバティックに跳躍して入り口の方へと向かう。やはりこいつ、ただの老人じゃあない。
「待て!」
近くにいたブレッドさんが老人を捕まえようとするが、軽やかなステップでそれを避けると老人はテントの外へと逃げ出す。
それを追いかけるが、その時には老人は既に遠くにいた。
「悪いけど、今はまだ事情を話せないんだよね」
遠くにいるはずの老人の声が何故かはっきりと聞こえる。
「また会おうか、城花」
「なっ」
何だ、この揺さぶられるような感覚は。
唐突に名前を呼ばれたことなんかより、胸を襲った謎の感覚に驚かされた。
違和感を抱く。普段、他人に呼ばれるときよりも遥かに…。
「ごめんシロカ。逃しちゃった」
「いえ、大丈夫です」
遥かに安心を抱いてしまう、この感覚は何だ。




