無理してませんか
果物や氷を入れるための袋を買い宿屋に戻ると、眠っていたはずのブレッドさんが目を覚ましていた。それでも顔色はあまり良くない。
「おかえり」
「起きてたんですね、無理してませんか?」
「全く」
「ならいいんですけど」
額に触れてみると温かく感じた。食欲はあると言うことなので、一度リンゴを取り出して皮を剥き始める。
「すり下ろします?」
「いや、大丈夫だよ。普通に切ってくれれば」
「そうですか」
とはいえ普通に切るのも寂しいので、せっかくだからいくつかをウサギ型にすることにした。渡すとブレッドさんは「凝ったことするねぇ」と笑っていた。後から気づいたことだが、この文化が共通で良かった。
食べている間に氷を作り、袋に詰めて口を閉めベッドの隣に置いておく。さて、あとは風邪薬か。ポケットの中から例の小瓶を取り出すと、それを見たブレッドさんがギョッとしていた。
「何それ、毒?」
「そう見えますが風邪薬らしいです」
「えぇぇ、嘘だよ。そんな鮮やかな色した液体が体に良い影響を与えるわけないって」
私もそう思うが、あの怪しい老人の瞳は嘘をついていなかったと、そう感じたのも事実だ。
「それ、飲まなきゃダメ?」
「効き目があるのなら飲んで欲しいです。ですがその前に、私がこれを毒味します」
中身の液体の量は少ない。数滴分だけ自分の掌に乗せて軽い水溜りを作ると、私はそれを舐めてみた。
舌に痺れはない。喉が熱くなったりもしない。一応特に問題はないように感じたが、どうだろう。
それから数分待機したが体に特に異常は見られない。少なくとも、口に入れて即死するような物では無さそうだった。
「安心して、良いのかな?」
「まぁ、死にはしなさそうです。倦怠感もなければ高揚感もありません。麻薬とかの類でもなさそうです」
「そう。…なら試してみるかな」
ブレッドさんは小瓶を取って覚悟を決めるかのようにゴクリと唾を飲み込むと、中身を一気に飲み干した。随分と男らしい。
それから彼女の様子を見ていたが、特に変なところは見受けられなかった。寧ろ、若干だが顔色が良くなっている気がする。
「何ともないですか?」
「うん。…もしかして、本当に風邪薬だったのかな?」
「それに越したことはありません。良かったですね」
そうだなぁ。と呟いたブレッドさんは、いつの間にか寝てしまっていた。それを見た私も、彼女の体を拭いたあとに眠りについた。
異変が起きたのは翌日だった。と言っても、悪い異変じゃない。
「何か体が」
「絶好調なんだけど」
私だけでなく、昨日まで風邪で本調子じゃなかったブレッドさんまでがそうだった。
体は軽く、思考も良好。それでいて気分も晴れやかだった。
体が例の小瓶を欲していなさそうなところを見ると、やはり麻薬のようなものではないと思うが…。
何だろうあの薬は。もしかしたら、少しあの店を調べてみる必要があるのかもしれない。




