そんなわけあるか
テントの中に入るとこれまたいかにも怪しいローブを纏った老人が水晶玉の前に座っている。
その水晶玉が乗っているテーブルにはボコボコと泡が吹いている液体や、何故か煙が出ている液体などが試験官に入れられ並んでいた。
「ひっひっひ。よく来たねぇ」
嘘だろ、今ひっひっひって笑ったぞ。こんな笑い方するのは小説の中だけだと思い込んでいた。
「どうも」
「薬をお求めかい」
「風邪薬を。できるだけ安全なものを探しています」
「そうかい、そうかい」
老人はまたひっひっひと笑うと、テーブルの下をあさり出した。取り出したのは小さな小瓶。中にはこれまた怪しい青色の液体が入っている。
「何ですかこれ。発光する虫をすり潰したような色をしてますけど」
「ひっひっひ。風邪薬だよ」
「へぇ、これが風邪薬」
そんなわけあるか。こんな液体見たことないわ。
「あんたが求めていた物だろう?持って帰らないのかい」
「生憎このような風邪薬は見たことがなくて」
「そりゃあ、いい。今日は凄いものを見る日になるよぉ」
何を見るというのだ。グロテスクだったりトラウマみたいなものじゃなければいいのだが。
「さぁ持って行きなさい。それがあんたのためになる」
「なる気は全くしませんが」
「ワタシの言葉を信用しな。きっと幸せになれるよ」
あんた女だったのか。全く気がつかなかった。
それにこの老人の言葉も全く信用する気になれない。寧ろ信用しろという方が難しいだろう。
一言話して断ったら店を出よう。そう思ったらテーブルに置いてあった小瓶がなくなっていた。どんな手品だ。
「何かしたんです?」
「さて、ね。お行きよ。その薬が必要な人がいるんだろう」
ドキリとした。何でそれを知っているのか。確かに今の私は病人には見えないものの、薬を必要な人間が他にいるとは、普通は推測できないだろう。
「何で」
「顔を見れば、わかる。年の功って奴さ」
その言葉を素直に信用できないのは相手の外見のせいだろうか。それとも私の性格が醜いのだろうか。
だが、ローブに隠れていたその顔がちらりと見えた。瞳に嘘の色はない。
老人は私の腰元を指をさした。何かと思い触ってみると、ポケットの中に先ほどの小瓶が忍び込まれていた。
「それはあんたに必要とされたがっている」
老人はそう言うと、上げていた指をおろした。
…信じてみようか?いや、毒だった時は対応に困るな。そうだ。一度、私が毒味してみよう。
怪しい老人に一礼し、私はテントを飛び出した。何とも起きませんようにと、少しだけ生まれた不安と共に。




