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異世界勇者の人助け  作者: 鳥羽こたつ
4.5章
67/125

昔の自分を見る

すみません、また誤字報告がありました!報告してくださった方、本当にありがとうございます!

僕自身がかなり見落としが多い人間なので…。なるべく自分で気づくよう努力します。

───

「風邪ひいたって?」


へっくちん。

我ながら変わった掛け声でくしゃみをした私を、ブレッドさんは不思議そうな顔で覗き込んでいた。


「病気状態なのかな」

「かもしれません、へっくち」

「随分かまととぶったくしゃみをするんだね」


うるさい、したくてしてるんじゃない。というか、くしゃみなんて意識的にできるか。これは天性のものだ。

などと言う気力すらなく、私はひたすらに安物のハンカチで鼻をかむ。あぁ、鼻がひりひりする。


「それで何だっけ、薬?」

「はい。私が買ったものの中にはそれらしきものがなかったので」


正確に言うと、どの薬がどんな効能なのか忘れてしまったのだが。自分が持ってる薬も渡して風邪薬がないかをブレッドさんに確認してもらう。そして数分、彼女は全ての薬の効能を確認すると首を横に振った。


「ないね」

「何でですか?」

「買ってないからじゃないかなぁ」


普通旅をするなら風邪薬の一つや二つ買っておくものでしょう。そう叫びたい気持ちは胸にしまった。薬を買ってないのは私も同じだ。何バカなことを考えているんだろう。風邪で思考が混沌と化している。


「近くに街はないけど、どうしようか」

「しばらく休ませてくださあぁ、へっくち」

「…ん、そうしようか。無理して進む必要もないしね」


すみません、と謝りつつ今日はこのままテントで休むことにした。同じテントで寝るのが申し訳なくなるな。こんな密閉空間にずっといようものなら、風邪なんて簡単に移ってしまいそうだ。

とはいえ今は対策のしようがない。それに、他人を気遣う余裕もない。ここはブレッドさんに甘えて休ませてもらうとしよう。汗で服が体にへばりつく嫌な感覚を感じながら、私は寝袋に包まって眠りについた。

こうしていると昔を思い出す。そういえばつい何年か前に、こうやって風邪で寝込んでしまったことがあったっけ。

あの時も旅の途中だった。そして私の周りには仲間がいた。今こうして共に過ごしている彼女ではない、他の仲間が。


昔のことを考えていたからだろうか。

とても久しぶりに、寂しいという感情が芽生えてしまった。

そのせいだ。私がこんな、昔の自分を見ることになったのは。


城花(シロカ)、大丈夫?」


それは母のように優しい声だった。私にとって誰よりも、何よりも安心する音色。

鳶色のロング・ヘアを靡かせながら、その女性はとても心配そうに私を見つめていた。


(シルシ)。全然大丈夫じゃないの。頭が揺れて、もう立てないぃ」

「えぇぇ、そりゃ大変だよ。どうしよ、ワタシって看病とかそういうの得意じゃなくて」


アタフタと慌ただしく手を振りながら印という名の女性は何かないか何かないかと必死にリュックサックから物を漁り出していた。

やがて印は袋の中に魔法で氷を作り出すと、口を縛って私の頭に乗せてくれた。有り難いが、少々量が多い。顔の半分は冷たくなった。


「ふん、体調もまともに管理できないような奴が旅に出るからだ」


テントの外で火を焚いていた男性が中に入ってくる。仏頂面を浮かべ、更に厳しい口調ではあったが、その手の中に小さな鍋を抱えていた。


「卵粥だ。早く食って、寝ろ」

「ありがとうございます。優しくしてくれて」


男性は返事もせずにテントを出て行った。鍋を受け取ったのは印で、彼女はスプーンで米をすくうと冷ましてから私に食べさせようとした。まともに動けないとアピールしたのは私だが、いざこういう対応をされると照れてしまうのは何故だろう。


「どう、美味しい?」

「うん。やっぱり大牙(タイガ)さんの料理は美味しいなぁ」


外に聞こえるように言ったつもりだが、先程の男性から返事は返ってこなかった。

こうして風邪をひくのは久しぶりだ。だから、私はついつい目の前の彼女にこう言ってしまった。


「ねぇ、印」

「なぁに?」

「甘えても良いかな」

「あはは。しょうがないなぁ」


そう言うと印は再びお粥を冷まして口へ運んでくれた。

こういう時、ちゃんと口にしなかったことを後々後悔するのだ。


「ありがとう」


…本当は、この時にこんな言葉を言っていない。

だって目の前の人は、ずっと私のそばにいるものだと思っていたのだから。

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