大切にする
「ただいま──え、何この匂い」
鍋一杯にクリームスープが出来上がり、すっかり日が暮れた頃。ダリダは紙袋を抱えながら帰ってきた。クリームスープの濃厚な香りとパンの甘い香りが混ざり合い、たまたま同席しているアタシたちもお腹が鳴ってしまいそうだった。
「ニアンダ?あんたもしかして勝手に一人で料理したんじゃないでしょうね。…あ、ブレッド?」
「どうも。お邪魔してるよ」
アタシとシロカの姿を見るとダリダは少しホッとした様子だった。後でこっそり理由を聞いたところ、「まだ小さいニアンダが火とか包丁とか使ったら危険でしょ」と語っていた。態度や言い方は厳しいものがあるが、やはり彼女の本質は妹想いなのだと実感した。
「それで、何の用?まさか家事代行をしに来たわけじゃあ、ないでしょう」
「そりゃそうだ。実は別れを会いに来てね」
「何その言い方。まさかとは思うけど、自殺でもするの?やめてよね」
「するわけないでしょ」
そんな縁起でもないことを言わないでほしい。確かにアタシの言い方も良いものではなかったが。
「お金も溜まってきたからさ。そろそろ次の街へ向かおうと思ってるんだ」
「あー。そういうことか。そういえば旅人さんだったっけ」
「え。シロカさん達どこかへ行っちゃうの?」
そう言ったのは、相変わらず寂しげな顔をしたニアンダちゃんだった。彼女はまだ幼い。親しくなった人との別れなど、それこそ彼女の両親を除けば存在しないのだろう。その唯一別れることになったのが両親だというのがとても悲しいことであるが。
とはいえ、ニアンダちゃんに囚われてここにずっと留まるわけにもいくまい。
「そうなんです。私たちもやりたいことがありますから」
先に言葉を切り出したのはシロカだった。優しい顔だが、口調は厳しい。
「それって、大切なこと?」
「とても」
「そっか。…それなら、仕方のないことかもね」
「聞き分けの良い子は得をしますよ。時と場合によりますが」
そう言ってシロカはニアンダちゃんの頭を撫でた。ニアンダちゃんは気持ちよさそうにふわりと笑う。こうして見ると、この二人も姉妹に見える。…というか母と娘だろうか。ダリダとニアンダの関係は父と娘のような。
そうなると、ダリダとシロカが夫婦になるのか。想像がつかないなぁ。
「何かアホなこと考えてない?」
ダリダがジロリとアタシを睨んでいた。すっかり心の内が読まれるようになってしまった。
「まぁ、そんなことより。旅立ちなんでしょ?これあげる」
そう言うと、ダリダは引き出しから小さなぬいぐるみのようなものを二つ取り出してアタシとシロカに手渡した。何だろう、見たことがない動物だ。人型のようにも見えるし、何だか犬のようなものにも見える。
「何これ」
「お守り。安全に旅を終えれますようにって」
そう話すダリダの顔は少し照れているように見えた。不器用な彼女らしい。
「ありがとう。大切にする」
「効果があるかはわからないから。あたし、ちゃんとした手法なんて知らないからさ」
「それでも気持ちは込めてくれたんですよね?」
シロカの言葉に、ダリダは更に顔を赤くして寝室へ着替えに行った。言葉には出さなかったが恐らく事実なのだろう。可愛い人だ。
その後、顔が真っ赤のまま戻ってきたダリダと四人で夕食を食べ始めた。何故だか今回のスープは、今までで一番温かいような気がした。




