でも、きっと大丈夫
夕飯にパンとスープをいただいたアタシとシロカは、リビングの床にタオルケットを敷いて就寝しようとしていた。ダリダは寝室にあるベッドを譲ろうとしてくれたが、案の定シロカがそれを拒否し続けたのだった。
そうして寝床に入ったアタシたちだが、どうしても聞きたいことがあったアタシは隣にいる少女に声をかけた。
「ねぇシロカ」
「何です?」
間髪を容れずに返事をしてくれたところを見ると、もしかしたら彼女も寝付けなかったのだろうか。
「ちょっと聞きたいことがあって。本当は、聞かない方が良いかもしれないことなんだけど」
「どうぞ。ある程度のことで動揺はしないつもりです」
「シロカの家族と、お隣さんって人について聞きたくて」
シロカはすっかり黙ってしまった。動揺してしまったということなのだろう。彼女には申し訳ないという気持ちはあるが、もし良ければアタシにも話を聞かせてもらいたかったのだ。
「その話はニアンダから?」
「うん。えっと、ごめん。やっぱり話したくない話題だったかな」
「どうでしょう。話すつもりがない話題ではありましたが」
シロカはアタシから顔を背け、少しだけうんうんと唸り出した。彼女の様子を見る限り、やはりこの話題は避けた方が良かったのだろう。そう思い「やはり何でもない」と言おうとしたが、それより早くシロカの方が動いた。
「私の家族は全員死にました」
「…うん」
「そのこと自体はあまり覚えていません。私が子どもだったこともあり、両親の顔もぼやけています」
「そう、なんだ」
家族の顔が思い出せないというのはどういう感覚なのだろうか。アタシは寧ろ、自分を捨てた母親の顔を忘れたくても忘れられない。アタシにとってそれは呪いみたいなものだと思っていたけれど、もしかしたら忘れてしまうことよりは良いことなのかもしれない。
「なので本当の家族については、特に何も思っていません。あの世にいる両親たちには申し訳なく思いますが」
「本当の家族についてってことは」
「えぇ、親代わりがいました。それが例のお隣さんということです」
「もしかしてシロカが元の世界に帰りたい理由って、その人と会うため?」
「いえ」
予想が外れたことに驚いた。アタシはそうなのだろうと決め付けていたからだ。
「そのお隣さんも死にました」
「…は?」
「死にました。なので、二度と会えないと思います。多分」
あまりにも嘘くさい話だと、思ってしまった。彼女の家族も、家族代わりも死んでしまったというのか。そんな悲劇、まるでフィクションじゃないか。
「気をつけた方が良いかもしれませんよ」
「え、えっと。何が?」
「私の周りにいる人は大体不幸な目に遭います。恐らくブレッドさんも例外ではないでしょう」
明かりがないから顔は見えないが、その声から、本気でそう思っていると感じられた。仮に彼女が話したことが全て本当なら、アタシが言いたいことは。
「わかった。でも、きっと大丈夫だよ」
「は?」
「ここはシロカの知る世界じゃないんだもの。例外があってもおかしくないと、そうは思わない?」
それきりシロカは黙ってしまった。周りが不幸な目に遭うというのは、シロカのせいではない。悪い運命だったんだ。そう思って、シロカには前向きに生きてほしいと願ったが、その祈りは通じただろうか。




