何も知らない
「その、色々とありがとう」
アタシたちが外へ出てから数分後。ダリダはその両手でニアンダを抱きかかえたまま、外にいるアタシたちに声をかけてきた。
「えっと、シロカさん?でしたよね。ニアンダを保護してくださりありがとうございます」
「え?あー。そんな特別なことはしてませんよ」
「シロカさんは凄いんだよ。あたしのこの足の怪我とか治してくれたんだ」
「それ怪我しなければ済むことだから。…ともかくです。本当にありがとうございました」
ぺこり、とダリダは頭を下げる。アタシと二人でいた時は見なかった態度だ。
「大したお礼はできませんが、今お金を用意します」
「えぇぇ。いや、受け取れないですよ!」
シロカはわざわざお礼を言われると思っていなかったのか、とてもあたふたしていた。女神騒ぎの時も思ったが、この子は人から褒められるというか、好意にとても弱いみたいだ。そんなんじゃ生きにくいだろうに。
「素直に受け取っておいたら?」
「そんな台詞、私には言えません」
「そこまで変なことをさせるつもりはないけど…」
こうなったらシロカは意地でもお金を受け取らないだろう。チラリとダリダの方を見ると困った顔をしていた。向こうは何か、お礼をしなければ気が済まないという考えだろう。
「ならさ、一泊させてもらうってのはどう?全部を任せるんじゃなくて、料理とかは一緒に用意するとかだったらシロカも納得できるんじゃない?」
アタシの提案に、いつの間にかニアンダを降ろしていたダリダがパンと手を叩いた。それがいい、そうしたいという顔だ。シロカの方はしばらく眉間に皺を寄せていたが、ここが落とし所だと思ったのか首を縦に振った。
「そうと決まればまずはご飯の準備だね。結構遅い時間になっちゃったけど、まだ空いてる食材屋ってあったっけ?」
「ない。食材なら家にストックあるから、今日はそれで作ろうと思うんだ」
「わかった、じゃあアタシも手伝うよ」
「やめてください。やめて」
厨房に向かうダリダを追いかけようとするアタシを、シロカが物凄い形相で止めた。珍しく敬語が崩れていた。道中、偶にアタシが料理を作るとげっそりした顔をしていたが、そんなにアタシの料理が苦手なのだろうか。だとしたら直接言ってくれれば良いのに。
「私が手伝います。ダリダさん、献立は何にしますか?」
「えぇと、今残っている食材なら…」
厨房に並ぶ二人を見ていると、くいと服を掴まれた。そちらに視線を向けると、ニアンダちゃんがアタシを見上げていた。
「えっと、何かな?」
「貴方がシロカさんのお隣さん?」
何のことだ。
「いや、アタシはその。シロカの相棒だよ」
「じゃあシロカさんのお隣さんとも知り合いなの?」
「んー。そのお隣さんっていうのはわからないかな」
「相棒なのに?」
それを言われると辛いところだ。よくよく考えてみれば、アタシはシロカが異世界の勇者様だってこと以外は何も知らない。彼女がどう過ごして、何を考えて生きているのか、全くわからない。
「ニアンダちゃんは、そのシロカのお隣さんの話って聞いてるの?」
「うん、えぇとね」
そこで聞いた事実にアタシは驚いた。
まさか、シロカに家族がいないなんて。
そんなこと、アタシは何も知らなかった。




