この話をすることになるだなんて
家族を辞めたいと思ったことはあるか。ニアンダは私にそう問うたが、恐らく彼女自身が抱えている問題なのだろう。隣で座る彼女の表情を見るところ、どうやら思春期特有の家出ではなさそうだ。
先ほどまでと同様にニアンダが話を始めるのを待つ。次第に彼女はポツリ、ポツリと言葉を漏らし始めた。
「お父さん、とお母さんがね。死んじゃったの」
よく聞く悲劇だ。私も経験したことがある。
「それでね。今はお姉ちゃんと二人だけで暮らしているんだ」
「良かったじゃないですか」、その言葉を飲み込んだ。本当に良かったのなら、家族を辞めたいだなんて言い出すわけがない。私はただただ静かにニアンダの話を聞こうとする。
「でもきっと、お姉ちゃんはあたしのこと嫌いだと思う」
「それは、どうして?」
しかし流せないことが聞こえてしまい、私は思わず質問をしてしまった。たった一人の大事な家族を嫌うだなんて、恐らくないだろう。
「本当の姉妹じゃないから。あたしはお父さんの子どもで、お姉ちゃんはお母さんの子どもなの」
両親の再婚で出来上がった姉妹、か。これからゆっくり繋ぐはずだった二人の距離が、両親がいなくなったことで急に縮めなくてはならなくなった。幼い少女にとってこれほど辛いことはないだろう。
「でもあたしはお姉ちゃんの役に立てないから、だからお姉ちゃんはいつも怒ってるんだ」
「…それは」
「わかるんだ。あたしといると、いつも怖い顔してるから」
ニアンダは悲しそうにそう答えた。だが私は、嫌いだとかそういう感情ではないと思う。
恐らくだがその姉も追い詰められているのだろう。この小さな妹を自分一人で養わなければならない。自分も含めて生活しなければならない。そんな焦燥感が顔に出てるだけなのだと推測できる。
ニアンダはその焦燥感の原因を自分だと思ってしまったのだ。もしかしたらそれは間接的に合っているのかもしれないが、直接的な原因ではない。私の推測が正しければ、寧ろニアンダがいなくなることの方が姉にとって迷惑をかけることになるだろう。
「だからね、あたしはお姉ちゃんの家族を辞めたいの。そうすればきっとお姉ちゃんも喜ぶと思うんだ」
「どうでしょう」
違う、とハッキリは言わない。これは私の推測だからだ。
「血が繋がっていようがいまいが、家族のような関係にはなれると思いますよ」
「…お姉さんにはわからないよ」
「私には?いえ、わかりますよ」
そう言うとニアンダは沈んでいた顔をガバリと上げる。その目には少しの期待がこもっていた。同族を探すような、そんな瞳が。
「少し、昔話をしましょうか」
まさか私がこの話をすることになるだなんて。
もしかしたらこれは自分と似た境遇を過ごす彼女にとっての励ましなのかと、密かに思っていた。




