私が絶対に守るから
声が聞こえてから数分。林は静寂に包まれていた。そのお陰でモンスターが今どこにいるのかもわからない。脇に抱えたこの少女のためにも、さっさと決着をつけたいところではあるのだが。
少女の方へ顔を向けると衰弱した顔をしている。どこから敵が来るかわからない、この死と隣り合わせの状況は、足を怪我した彼女にとっては非常に恐ろしいものだろう。
「大丈夫だよ」
そんな彼女に声をかけるとすれば。
「私が絶対に守るから」
この言葉しかなかった。
「…え?」
「ま、そういうことです。死にはしませんよ。大人しくしてればね」
──力を貸して。
──あの時、私にそうしたように。
誰に言うわけでもない。自分の胸の中で私はそう繰り返す。普段の私ならあまり使わないであろう口調に、今更ながら恥ずかしくなってきた。逆に言えば、良い感じに緊張がほぐれたと言ったところか。
目を閉じて聴覚からの情報に身を委ねる。風が木々を揺らす中、それを乱すような音がした。唸るような低い声。
近くにいる。敵が。
声の方向へ体を向けるのと同時に、目の前の茂みから紺色の影が一直線に襲いかかって来る。
「わぁっ!」
「暴れないでっ」
驚いた拍子に体をジタバタと動かす少女の体を強引に押さえつけ、横へ大きく跳躍。獣の攻撃を避け、現れた敵を睨みつける。そこには紺色の毛を持つ狼がいた。
見たことがある種族だ。恐らく戦ったこともある。あやふやな記憶しか残っていないということは、苦戦した相手でもないのだろう。
敵の場所が分かったこともあり、一言だけ言葉を添えて、少女をそっと床に下ろす。
「離れないでね」
足を怪我してるから自由に動けないとは思うが。
頷く彼女を横目に、再び狼へと目を向ける。その直後、奴は私に向かって飛びかかってきた。こんなに都合よく、自分の領域に入ってくる展開も珍しい。
「迂闊なぁ!」
正面に手を突き出し、目の前の敵を氷漬けにする。一瞬で氷の塊と化した獣は、ゴトンという音を立てて床に落ちた。ピクリとも動かないその体の上に、今度は土の魔法で岩を作り出して上空から一気に叩きつけた。氷の塊は一瞬で砕け散り、危険と共に泡となって消えた。
「ふぅ」
余裕な戦いだったとはいえ、少しだけ疲れた。地面にぺたんと座り込むと、自然と隣にいる少女と同じ体勢になっていた。その表情は安心と、それとは別に何かを耐えるような顔をしている。
「あぁそうだ。怪我を治さなきゃいけませんね」
魔法で治せれば楽なのだが、生憎私はそんな魔法を知らない。確か自分用に薬を持っていたような。そう思って荷物を漁ると、この状況にぴったりのものが出てきた。私はその包みを手に取り、包装を破いていく──。




