彼女の目標も
「『彼女は我々に語る。我々のために語る』だね」
例の神話の本を借りて、とりあえず前後の文章だけブレッドさんに読んでもらった。彼女が言うにはそう書いているらしい。
私が読めた文字を語っていたのが誰なのかを聞いてみると、そこまではわからないらしい。というのも、このページには代名詞でしか書かれていないとのことだ。
「まぁ、読み込んでみればわかるとは思うけど。こういう本ってアタシの管轄外だしなぁ」
「そうだ、それなら私に文字とか文法を教えてもらえませんか?」
「え、アタシが人に教えるの?」
「いけませんか?」
「向いてないんだよねぇ」
ブレッドさんは腕を組み、困った表情を浮かべながら唸り出した。彼女から物事を教わったのはすてーたすうぃんどうの開き方くらいだったか。あれは私が異世界人だということを知らなかったのもあるが、確かに「やってみればわかるでしょ」系の教え方ではあったように思える。感覚で物事を伝えるタイプなのだろうか。
「とにかくだ。ここの図書館は街の外に本を持ち出して良いみたいだし、気長にでいいなら読み進めていくよ」
「それは助かります。ありがとうございます!」
これで私の目的に関する情報が少しでも手に入るかもしれない。そう思うと、自然と声が弾んだ。
っと、私ばかりが喜んでいるわけにもいかない。これだけ人がいるのであれば、目の前の彼女の目標も達成できるかもしれないんだ。
「ところで、ブレッドさんの方はどうなんです。お母さんに関する情報とかって手に入りました?」
「ん。いや、全然」
「…そもそも何ですけど、探してますか。前の村は一度来たことがあると言ってたので、そんなものなのかと思ってたんですけど」
「ま、ぼちぼちね。旅の目的というより人生の目的だからさ。焦らず探しに行こうと思ってるわけよ」
「…貴女がそういうのであれば、それで」
彼女自身がそうしたいと言うのであれば、私が口出しすることはできまい。恐らく本音としては、自分を捨てた母親と対面する恐怖などもあるのかもしれないが──そんな気持ちを勝手に想像するのも何だか悪い気がするので、私はこのことについて考えるのをやめた。
その日の夜にもう一度祭りへ赴き、楽しんでいたはずなのだが…。私は何故か、昨日と異なり心の底からその感情を感じることはできなかった。




