バカだなぁ。ここまで来て
昼食を済ませて歯を磨いた私は、まだまだ起きなさそうなブレッドさんを見ると書き置きを残して宿屋を後にした。
人の間を縫うように歩き当初の目的である場所まで辿り着く。なるほど、聞いていた通りだ。
『ヒスィガタ図書館』。この街へ来る前にブレッドさんが話していた大きな図書館は、中に入るとその本の量に驚かされた。この世の全ての本がある、そう言われても信じてしまうだろう。更に受付のおじさんの話を聞く限りこの建物は三階建てらしい。随分とボリューミィだ。
神話や御伽噺などの本がある三階まで辿り着き、目的のシルシに関する本を探そうとする。だが、そこまで来て初めて気づいた。
「駄目じゃん」
私、この世界の字読めないじゃん。
色々浮かれていたせいもあるのだろうが、全く気づかなかった。バカだなぁ。ここまで来て無駄足だったか、半ば諦めながら適当な本を手に取ってパラパラとめくってみる。
「ん?」
その中で唯一読める箇所があった。若干形は違うが、私の世界の文字によく似ている。えぇと、この言葉の意味は。
「そのしあわせのために…?」
前後の文字がこの世界の文字で書かれているため、この言葉の真意がわからない。仕方がない、本を借りて残りの文章をブレッドさんに呼んでもらうか。…それと、少しはこの世界の文字を読む勉強でもしようか。
「あれ、シロカさん?」
本を手に取り、受付へ向かおうとする私を呼び止める男がいた。このか細い声、もしかしてつい昨日出会った…。
「シンさん」
「やっぱりシロカさんだ。はは、もしかして読書が趣味なんですか?」
「そんなインテリガールじゃありませんよ。寧ろ正反対の立ち位置にいる存在です」
「でもここにいるってことは、本が好きなんですよね?だって、普通はお祭りの方に行くじゃないですか」
「それはまぁ、昨日行ったので。あと、知りたいことがあったんです」
「僕で良ければ力になりますけど。この前のお礼もありますし」
それはありがたいが、頼って良いのか戸惑ってしまう。何せ頼みたいことが、「文字が読めないのでこの本を音読してください」だものな。ある程度仲良くなったブレッドさんならまだしも、知り合ってから数回しか会っていない彼にそんなことを頼むのは、ちょっと恥ずかしいものがある。
「お気持ちは有り難いのですが、やはりこういうのは自分で調べてこそ意味があるものかと」
「はぁ。それでも何か助けられることがあれば連絡ください。学校に手紙を送ってくれれば、遠くの街へいても協力はできると思いますので」
「ありがとうございます。お気持ちは受け取っておきます」
彼は本当に優しい人なんだな、そう思ってその場を後にした。そしてそのあと、私は結局ブレッドさんを連れてこの図書館に戻ってくることになる。
…貸し出しカードに、名前も何も書けなかったからだ。




