では大豆食べましょうか
私たちが歩いていた場所が開けた土地だったことが幸いした。悲鳴の主は遠くにいたが、発見するのに多くの時間はかからなかった。
「いた!」
メガネをかけた少年が大きな熊に襲われていた。少年の手にはレザーポーチが握られている。恐らくここら辺の土地で野草か何かを摘みに来たのだろうが、運が悪かったな。
いや、近くに私たちがいることを考えると運が良かったのか。
「ブレッドさん、トドメは任せますから!」
答えは聞かず、動きを早める。助走を行って勢いをつけながら、足に力を込めて幅跳びを行う。
「この距離なら、避けられまい!」
その結果、私と熊の距離は一気に詰められる。突如視界に現れた私の、それもゼロ距離の攻撃を避けられることもなく。
「焼けろっ!」
顔に向かって手を掲げ、そこから大きな火球をぶつける。そしてよろめいたところを、私の背後で構えていたブレッドさんが飛び出して。
「斬り裂くっ!」
脳天から地面へかけての縦一文字でトドメを刺した。
最近になって、ようやく彼女と攻撃の連携が取れるようになってきた。同時に攻撃を仕掛けることは勿論、タイミングをずらして敵に抵抗させることなく攻撃することができたり。これも一緒に旅をしたおかげだろうか。
熊はよろよろとその場で千鳥足を踏んだ後に、いつものように泡となって消えた。この光景を見て何も思わなくなったあたり、慣れとは凄いなと感じる。
さて、と。
「怪我はありませんか?」
後ろで震えていた少年に手を差し出す。見た目は細く、背が私より少し高いといったところか。男性としては小さな体だ。以前戦った神父よりも頼りない体をしている。少年は私の手を握り立ち上がると、すぐに礼を言ってくれた。
「は、はい。ありがとうございます。助かりました」
痩せた顔が弱々しく笑う。何だか今にも倒れてしまいそうだ。とりあえず食べ物を渡した方が良いのではないだろうか。そんな不安を抱えるくらいに、目の前の少年はひょろっちかった。
「大丈夫ですか。肉食べますか」
「え。えぇと、お肉はあまり好きではなくて…」
「では大豆食べましょうか。塩茹でくらいしか食べ方を知りませんが」
「えぇと、どうして僕にタンパク質を取らせたがるんですか…?」
しまった、これでは完全に変な人だ。いらないお世話は人の印象を悪くさせる。反省しなければ。
「失礼、取り乱しました。私たちは旅の者なのですが、貴方は?」
「あはは、動きと装備を見れば分かりますよ。僕はシン・ヤヨル。この近くの街で学生をやっています」
あれま。どうやら目的の場所に住んでいる人のようだ。
簡単に自己紹介をした後に私たちは彼の案内のもと、その近くの街にたどり着くこととなった。




