事実は情報と感情によって
夜は問題ないなく過ぎていった。ブレッドさんと二人で話をしていたら、意外とあっという間だった。
神父の身柄は村長に引き渡し、これで万事解決だ。宿屋に戻ってゆっくり体を休めようか。そう考えていたところを、私の後ろを歩いていたブラッドさんに肩を掴まれる。
「何です。驚くじゃないですか」
「せっかくだから観に行こうよ」
「何を?」
「あのインチキ神父が裁かれるところを!」
どことなく期待を込めた顔で彼女はそう言った。その表情が何を意識しているのか、睡眠不足の私が理解するのには時間がかかった。
「あぁ、人々を騙していた神父の行く末を見てみたいと。そういうことですか」
「そゆこと」
「趣味悪いですね。見ない方が良いと思いますよ」
恐らく、貴女が望んでいるような結末にはなりませんから。
そう言おうとしたが、口が動くより前に私は彼女に腕を引っ張られた。そうして成されるがままに村の中央にある広場へ連れてかれると、そこには既にこの村の大人たちが集まっていた。まだ神父の身柄を引き渡してから一時間も経っていないというのに、この村の人々は行動が早いんだな。
そしてその中心には、例の自称神が両手足が縛られた無残な姿で座らされていた。その隣には村長と、昨日彼が言っていた腕が立つ人が立っており、抵抗させないようにするためか武器を自称神の首元に当てている。
「えぇと、どうやら全員揃ったようですね」
村長が大きく声を張る。よく通る声だった。
「それでは、彼の処遇を決めようと思います。事前にお伝えしたように、彼は心を操る魔法でわたしたちの不安を大きくしていました。そうして悩み事を増やし、教会へ通わせるようにしていたのです」
金銭や食糧を要求したのは、自称神が言うには本筋ではないみたいだからな。彼はあくまで、「人々の悩みを解決させたかった」だけだ。
「悩みを解決するために彼が相談にのってくれたのは確かです。だが、その悩みは彼が用意したようなもの。それを許しておくわけにはいかない。したがって…」
村長が一呼吸おく。
「彼には罰を。わたしの監視下のもとで、無償の悩み相談をしていただきます」
あぁ。やはりその程度か。
村長が語った罰の内容に、大人たちは納得したように首を縦に振った。彼ら自身は神父のことをあまり憎んではいないのだろう。不安の心が大きくなっただの言われても実感はないだろうし、村長が言っていたように神父が彼らの相談にのっていたのは事実だ。
罰が軽くなるのは、まぁ当然と言ったところか。私の隣の女の子だけが、たった一人納得していない顔をしていたが。
「え、ちょっと待ってよ。本当にそれでいいの?」
神父にはもっと罰を与えるべきだ。そう言おうとした彼女の肩を掴み、私と彼女はその場を離れた。
「納得してないって顔してますね」
「そりゃそうだよ!人の心を操っていたのに、それをほとんどお咎めなしってどういうこと!?」
「それがここの住人たちの選択です。部外者の私たちが口出しするべきじゃありません」
まぁ、神父を捕まえている時点で完全なる部外者ではないのだが。
それでも私たちは神父が行ってきたことを全て知っているわけじゃない。彼と長年付き合ってきた住人があの程度の罰で良いと言うのならそれで良いんだろう。
「そうかもしれないけどさぁ!」
「事実は情報と感情によって変わるものですよ。彼の印象が住人にとって悪いものではなかった以上、これより酷い罰は与えられません」
「…そうかも、しれないけど」
表情は変わらないものの、私の言ったことを理解はしてくれたようだ。
彼の処遇を決める権利は私たちにない。外野がとやかく言ったところで、この村の住人が心変わりすることもあるまい。大人しくしておいた方がお互いのためだ。
「それじゃあ、見るものは見ましたね。私は宿屋に戻って休みます」
そう言って、私はその場を離れた。
こうして人々の心を惑わせた神父の話は終わった。一人納得しなかった旅人がいるが、それは彼女にとって良い学びとなるだろう。
決して全ての人が納得した終わりではなかったが、現実とはそういうお話の積み重ねだ。きっと次に向かう場所でも、似たようなことは起きるだろう──。
「あ、お姉さん!」
──と、思っていたが。この話にはまだエピローグがあったようだ。
声が聞こえた方を見ると、教会に潜入しようとして見つかった、あの小生意気なお子様が手を振っていた。
「聞いて!さっきお母さんがさ、僕に謝ってくれたんだ!」
「何を?」
「今まで教会に通い詰めていたことをだよ!これからは、もっと僕を見てくれるって!」
…あぁ、それは。
とても嬉しいことですね。
「お姉さんのお陰だよね、ありがとう!それを言いたくて!」
「どうも。私、受けた依頼は完遂する人間ですので」
「流石だよ!もうおばさんとは言えないね!」
「言ったら怒ります。若い女性に歳の話はNGだと伝えたでしょう」
そうは言ったものの、恐らくこの時の私は笑顔だった。
私にとってこの一連の話は、ほっこりとしたハッピーエンドとして終わったのだから。




