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異世界勇者の人助け  作者: 鳥羽こたつ
3章
40/125

傷の舐め合い

敵は一人、こっちは二人。数で見るならば、有利なのはこちらだ。だが相手は人の心すらも操る男、そう単純にいくとは思えない。

そう考えていたのだが。


「す、すみませんでした…」


数秒後、土下座している男が部屋にいた。

男が振ったナイフは空振りし、その直後に剣の柄頭でおでこを一発。かつてない速さで勝負がついた。

よく考えてみればこの男、人の心を操る魔法というかなり強い手段を持っているのにナイフを構えたんだよな。戦い慣れしていないのか。


「悪気は、なかったんです。ただオレは…」


悪気がなかったわけないだろう、人々から食糧や金銭を受け取っておいて。しかし次に男が話した理由は予想外なものだった。


「オレはただ、神になりたかっただけなんです」


は?

何を馬鹿なことを言っているんだと、呆気にとられて口が大きく開いてしまった。チラリと後ろを見るとブレッドさんも同じことを思ったようで、私と同じく間抜けな表情を浮かべている。


「どういうことですか。頭大丈夫ですか」

「いえ、本気です!」


本気でそう思ってるなら病院へ行かなきゃダメじゃないか。

本来ならとっ捕まえて話の一つでも聞いてあげようかと考えていたが、その話すら聞く必要はなさそうだ。ブレッドさんに頼み、あいてむぼっくすから縄を出してもらい、問答無用で手足を拘束していく。


「ま、待ってくれ!話を聞いてくれ!」

「牢屋の看守にでも話してあげてください」

「事情も知らないでぇ!」


男は騒ぎながら暴れ回る。別にこの状態でも拘束することは可能だが、若干面倒だ。仕方がない。足は結んだし、とりあえず話だけは聞いて大人しくなったところで外へ連れ出そう。


「わかりました、話だけは聞きます。その間に手首を結びますが良いですね?」

「あ、ありがとう。神に感謝せねば」


私には何もないのか。


「神になりたいってのはですね、人々の悩みを解決したかったんですよ。神は悩める人々を導くことができるでしょう」

「はぁ」

「オレの魔法を使えば、人々は悩みを持つことができる。あ、オレの魔法っていうのは、人が持つ不安の感情を大きくすることができるんですよ」


予想通りだった。

それからは少しの間、感情や彼の魔法についての詳細を聞いた。曰く人は誰でも不安や悩みを持っているが、意識していなければ気づかないものである。しかし魔法で不安の感情を増幅してしまえば、小さな出来事にでも不安を覚えることになるのだとか。


「そして小さな悩みが生まれたら教会に来てもらい、オレに相談してもらうか、神に祈りを捧げていただく。その間、魔法を使わなければいい。そうすれば不安は弱まります。また少ししたら魔法を使い、相談に来てもらう。ね、完璧でしょう!」


彼は途中から自分に陶酔しているように話をしていた。今まで彼の思い通りに物事が進んでいたのだろう。彼は簡単な悩みを解決して自己満足に浸り、村の人々は不安を鎮めるために彼へ依存していく。

ようするに傷の舐め合いと言ったところだろうか。馬鹿馬鹿しい。


「人々がオレを見る目は、神の像を見るものと同じだった!オレはまさしく、人々を救う神だったんだよ!」

「ふざけてるね」


そうバッサリ切ったのはブレッドさんだった。


「人の心を操っておいて、自分は神だって?何言ってるの」

「お前にはわかるまい!神となったオレの気持ちなど!」

「わかるわけがないでしょ。それに、許せないよ。感情を勝手に操るなんて人間のすることじゃない」


そう語る彼女の拳は強く握られていた。今にも目の前の神父へ突き出されそうだ。


「言っただろ?オレは元々ある不安を大きくしただけだ。時間が経てば、魔法を使わなくても相談をしに来たかもしれない」

「時間が経てば解決したことだってあるでしょ。それに良し悪しの話っていうより、あんたのやったことが嫌いだ」

「神に逆らうか、下賤が!はーははぁ!」

「…はっ」


最後の一言がブレッドさんの怒りを消した。呆れてものが言えない、と言ったところだろう。彼女の瞳には憐みが映されていた。

神父は自己陶酔が限界まで高まったようだ。彼はもう神になってしまったらしい。両手両足を縛られながらも高笑いを上げる神の姿は、とても惨めで滑稽だった。

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