絶対に嫌われる
ズズズ、大きな音を立てて像は動く。その下には一人分の穴があり、どこかへ繋がっているようだった。
「よっしゃ、正解!」
ブレッドさんが拳を握って喜んでいる。その隣にいる私は、先ほどの名前が脳みその中で木霊していた。シルシ、しるし、印。
偶然の一致も考えられた。だが、ファミリーネームまでが同じことなんてあるだろうか。もしシルシが、彼女がこの世界に存在するのだとしたら。
絶対に嫌われる。
嫌だ。嫌だ。彼女にだけは嫌われたくない。会いたくない。でも会って言わなきゃならないこともある。どうすればいい。誰か助けてください。いや、違う。私が救われるはずがない。みんなが私のことを嫌う。だって私は──。
「シロカー、どうしたー?」
──壊れそうなった私の思考は、その間延びした声が正常に戻してくれた。
目の前ではブレッドさんが手を振って反応を確かめている。こんなに近くで振られているのに全く気がつかなかった。
「あ、瞬きしてる。こっちも驚いたけどね、急に静かになるから」
「…恥ずかしいですね。どうやら例の神父のインチキにやられてました」
「ほんと?やっぱり協力者がいてよかったね。シロカの言った通りだ」
大きな笑い声をあげて私の肩をバシバシと叩いた。本当、助かった。彼女がいなかったらこの像は動かなかったし、不安の心が大きくなってたかもしれない。私にそんなのはもう残ってないと過信していた。情けない話だ。
「もう大丈夫です。ブレッドさんも、侵入する前のやる気のなさとかは大丈夫そうですね」
「あ、ほんとだ。何か大丈夫そう。…大丈夫かなぁ」
しまった。余計なことを言ってしまったようだ。感情なんて意識しなければ存在しないようなものなのに。
心の中で彼女に謝りつつ、私が先導する形で通路を進んでいく。暗い道が続いたが、やがて蝋燭の灯りが見えた。部屋だ。
手を広げ、後ろにいるブレッドさんに待ったをかける。中の様子を見ると、そこでは神父がぶつぶつと何かを話していた。
「ふん、やはり旅人はダメだ。漠然とした悩みしかない。それにあいつは神への信心が足りない。危険と隣り合わせの旅人だというのならば、神に守ってもらうべきだというのに」
余計なお世話だ。自分に起きたことは自分で何とかしなければならないんだ。私はそうして生きてきた。…つもりだ。
「今日はいつもより強めに魔法をかけてやる。くくく、村民の不安を高めてやるんだ」
魔法だと?この世界には人の心を動かせる魔法があるのか。そんなの洗脳じゃないか。許したくない。
そんな苛立ちが生まれたせいか、少し力が入ってしまった。握り締めた手をコツンと、壁に当ててしまったのだ。静寂の中で響く音は、侵入者が現れたことを知らせるのに充分だった。
「誰だ!」
「ブレッドさん、特攻します!」
返事が来る前に私は愛剣を手に、ナイフを構えた神父へと駆け出した。




