頭の心配まで
太陽が沈み、世界は暗闇に包まれた。黒い衣装に身を包みその中を歩く私は、さしずめ闇の使いとでも言ったところか。
「は、何言ってんの。頭大丈夫?」
無意識のうちに私はポエムを口にしてたみたいだ。しかも頭の心配までされてしまった。そこまで言われるとは思わなかった。
「私の頭は大丈夫です。それよりも、何でいつもと同じ格好なんですか?」
「やっぱり普段と同じ格好じゃないと不安になるから…」
「どういう理由ですか、それ」
不安の理由が適当にも程がある。いや、献立で悩んでいる人も居たくらいだし、理由は関係なく、心に不安を抱えやすい人は影響されやすいのかも。
…なるほど、私に全く影響がないのも納得だ。
「今更ですし、誘っておいて言うのもなんですが、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。教会の悩み相談活動がインチキってんなら、何でそんなことしてるのか知っておきたいしね」
恐らくただ金稼ぎをしたいだけだとは思うが。
大丈夫だと言うブレッドさんを連れて例の教会まで歩く。仕掛けをした二階の窓を見ると、僅かだが開いている様子だ。氷のストッパーは溶けてなくなっており、証拠は水滴しか残っていない。
「それじゃあ、あそこから潜り込みますか。私が先に入ります」
「うん。でもどうやって?鍵爪でも使うの?」
「それよりももっと楽な方法ですよ」
楽?と隣で首を傾げるブレッドさんは、次の瞬間に何かに気がついたようだった。私の行動は彼女の気づきと同じ内容だったようで、特に驚きもせずに宙に浮く私を見ていた。
「前も飛んでたもんなぁ」
そう呟く声が聞こえた。
開いている窓に手をかけ、音を立てないようにゆっくりと手前へ引いていく。人が一人入ることができるくらいスペースを用意すると、そこからするりと中に入っていく。
「シロカー、アタシはどうすればいいー?」
小さな、だが私には聞こえるくらいの声で、ブレッドさんは私を呼んだ。
「今浮かせるので、静かにしてくださいね」
「え、何て。…おぉぉぉっっ?」
いつも自身にかけている風の魔法をブレッドさんにかけた。ゆっくりと慎重に、彼女を浮かせてこちら側へ引き寄せる。自分にかけるのとは勝手が違うし、気を抜くと落としてしまう。皿一杯に入れた水を溢さずに移動するように、慎重に慎重に。
「おわぁぁ浮いてる浮いてる!」
…慎重に。
「すっご!アタシ空を飛んだことなんて初めて!」
「静かにしてくださいよ!バレてしまうでしょ!」
興奮するブレッドさんに対して注意、いや怒ってしまった。
あぁ、やっぱり私はまだまだ子供だ。こんなことで心の平静を崩されてしまうんだから。
だが意地だけは通した。魔法をかけたブレッドさんを落とすことなどせず、無事二階まで運ぶことができた。




