敬語を崩してしまうほど衝撃的な出来事だった
変色した、または変な色の水が出た野菜は加熱必須です。お気をつけて。
歩き続けること数時間。祝福してくれたはずの太陽はすっかり姿を隠し、今は夜だ。風が流れる音と虫の声、そして目の前にある焚火の音だけが聞こえる。
「それで、何ですけど」
あいてむぼっくすからテントを取り出し、夜営の準備はできた。だが私たちは、一つ大きな壁にぶつかっている。
「夕飯どうしましょう」
「あー…」
そう、料理だ。食材自体は例によってあいてむぼっくすに収納されており問題はない。鮮度もその箱の中であれば保てるらしいので、食中毒の心配はない。しかし調理となれば話は別で、各々のスキルが必須となる。それを持っているかと言われると…。
「私はその。苦手です」
自分で作って食べるくらいはしたことがあるが、どうやら私の料理下手は天性のものらしい。何度練習して味付けしても、何だか不思議な味になってしまう。そのため、自分が作った物を他人に振る舞ったことなどない。
「アタシは人並みってところかな」
「素敵です、クールです、羨ましいです。それではお願いできますか?」
「ん、まぁいいけど」
そう言ってブレッドさんはまな板と包丁、そして野菜を取り出すと、それを一口サイズに刻んでいく──。
いや、待て。
「皮は剥かないんですか?」
「え。皮には一番栄養があるんだよ」
「そんな話を聞いたことはありますが…」
じゃがいもに似たその野菜を皮ごと切っていく。確かじゃがいもって皮に毒持っている場合があるんじゃなかったか?こっちの世界では違うのかもしれないが。
続いて他の野菜も皮ごとカット。もう突っ込まないことを決めた私はそれを黙って見ていた。終わり良ければ全て良し。大体料理のできない私がとやかく言うことは良くないだろう。
刻んだ野菜や肉を鍋の中に入れ、水を入れ焚き火の上に移動させる。野菜を洗っていないが気にしない。お湯が沸騰すると、その中に調味料を入れてかき混ぜた。そんなごった煮のスープを皿によそい…。
いや、待て待て。
「味見とかしないんですか?」
「え。何度か料理していけば目分量で作れるでしょ」
「そんな話も聞いたことがありますが…」
ダメだ不安になってきた。灰汁も取っていないギトギトのスープを貰い、それを一口啜ると口の中には大地の香りと生臭い風味、そして調味料が混ざっていないのかやけに水っぽい味がした。
「うん、中々上手くいったんじゃないかな」
「そんなわけあるか!」
思わず敬語を崩してしまうほど衝撃的な出来事だった。まさか私よりも料理下手な人がいるとは。
この世界の人種はみんなこんな味付けが好きなのか?そう考えたがそんな訳がない。昨日まで泊まっていた宿屋の食事は普通だった。
となると、この人が問題か。まさか味覚がないのか。歯応えだけで食事を楽しんでいるとでも言うのだろうか。
「…今後の食事は街で買って、それをあいてむぼっくすで保管しておきましょう」
「えー。でもそれじゃお金かかるよ?」
「精神的不安を考えると必要経費です」
いや、ブレッドさんの言うことも適切ではあるのだが。…今後は私も、なんとかして料理が上手くなる必要があるようだ。




