恋人いますので
僕は今まで恋人がいたことなんてありません。自分のキャラに先を越されるなんて…
「シロカァ!」
ギルドに戻って来た私を、ブレッドさんが泣きながら抱きしめた。人の体温を感じるくらい強く抱きしめられるのは久しぶりだった。
「良かった、ほんとに!探しても見つからないから心配したんだからね!」
「それはすみません。急いでいたので」
「それでも不安にさせないでよ!せめて連れて行ってくれれば良かったのにぃ!」
あ、それもそうだ。早く助けに行こうとしていたから全く思いつかなかった。
「ん、ん」
怒りながら泣くブレッドさんに抱きしめられていると、後ろにいたハングさんが何か言いたそうに咳払いをした。それに気付いたブレッドさんが、恨めしそうに視線を向ける。
「何さ。言いたいことがあるなら言っていいよ」
「あ、あぁ。それで、だな」
何故か女の子のようにもじもじし出すハング・アー。良い大人がする仕草ではないだろうに。まだ幼児退行が終わっていないのだろうか。
「あんたに言いたいことがあってだな」
「え、アタシ?」
「お前じゃない。そっちの女神様だ」
え、私か。まさか今から再戦でも依頼されるんだろうか。そう思って振り向くと、ガシと肩を掴まれる。何だこの状況、前からはブレッドさんに抱きしめられ、後ろからは男から肩を掴まれている。
「こっちを向いてくれ」
「向いてますが…」
「その、な。お前のことがす、好きだ!オ、オレだけの女神になってくれ!」
…。
…何て?
ぽかんとした表情を浮かべてしまう。恐らく私だけじゃないだろう。チラリとブレッドさんの方を見ると、彼女も呆けた顔で口を大きく開けていた。更に周りにいたハングの仲間たちもそんな顔だった。
「急に言われて困るかもしれないが」
「まぁ、確かに困ってますが」
「少し考えてみてほしい。明日にでも返事を…」
「いえ。私、恋人いますので」
空気が凍えた。ブレッドさんやハングや彼の仲間だけでなく、受付嬢のお姉さん方まで固まった様子が見えた。
「わたしだってまだ彼氏できたことないのに…!?」
…受付嬢さんの怒りのポイントが見えた気がした。
「え、そんな、ちょ、まさか、え」
「そんなに驚きますか。十八年生きて来たら、一人はできますよ」
「えぁぁ!?」
今日は驚かれてばっかりだ。ブレッドさんは形容し難い声を上げた。ただでさえ大きく開けていた口がパクパクと間抜けに動いている。
「シロカってアタシより歳上だったの!?」
「は。え、ブレッドさんって私より歳下なんですか。幾つですか」
「十六だけど」
「成長早くないですか?」
「人を植物みたいに言う…」
身長だって胸だって私よりも大きいのに。まさか、そんな。一つか二つは上だと思っていた。
「あ、それどころじゃないよ。シロカって彼氏いるの!?嘘でしょ」
「それは嘘ですね。いたのは彼女、です」
言葉に詰まったのはそこに嫌な過去があったからだった。
「彼女ぉ!?」
何度目かの叫びだ、もう驚かれるのにも慣れた。ブレッドさんにはどこか冷ややかな目で見られてしまっている、そんな気がする。わざわざ自分から言わなかったのは、こうなることがわかっていたからでもある。
「えー、そういう?シロカってそういう人?」
「…ま、そういうことですね。唯一の恋人が女の人でしたし」
「アタシ、唯一の人もいたことなかったけど」
「人それぞれでしょう。きっとこれから良い出会いがありますよ」
「うわ、凄い上から目線」
それからというもの、話は平行線のままダラダラと続いた。ブレッドさんからはちょっと冷めた目で見られ、ハングさんは魂が抜けた顔をしており、周りの人々には若干奇異の目で見られることとなった。




