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異世界勇者の人助け  作者: 鳥羽こたつ
2章
28/125

恋人いますので

僕は今まで恋人がいたことなんてありません。自分のキャラに先を越されるなんて…

「シロカァ!」


ギルドに戻って来た私を、ブレッドさんが泣きながら抱きしめた。人の体温を感じるくらい強く抱きしめられるのは久しぶりだった。


「良かった、ほんとに!探しても見つからないから心配したんだからね!」

「それはすみません。急いでいたので」

「それでも不安にさせないでよ!せめて連れて行ってくれれば良かったのにぃ!」


あ、それもそうだ。早く助けに行こうとしていたから全く思いつかなかった。


「ん、ん」


怒りながら泣くブレッドさんに抱きしめられていると、後ろにいたハングさんが何か言いたそうに咳払いをした。それに気付いたブレッドさんが、恨めしそうに視線を向ける。


「何さ。言いたいことがあるなら言っていいよ」

「あ、あぁ。それで、だな」


何故か女の子のようにもじもじし出すハング・アー。良い大人がする仕草ではないだろうに。まだ幼児退行が終わっていないのだろうか。


「あんたに言いたいことがあってだな」

「え、アタシ?」

「お前じゃない。そっちの女神様だ」


え、私か。まさか今から再戦でも依頼されるんだろうか。そう思って振り向くと、ガシと肩を掴まれる。何だこの状況、前からはブレッドさんに抱きしめられ、後ろからは男から肩を掴まれている。


「こっちを向いてくれ」

「向いてますが…」

「その、な。お前のことがす、好きだ!オ、オレだけの女神になってくれ!」


…。

…何て?

ぽかんとした表情を浮かべてしまう。恐らく私だけじゃないだろう。チラリとブレッドさんの方を見ると、彼女も呆けた顔で口を大きく開けていた。更に周りにいたハングの仲間たちもそんな顔だった。


「急に言われて困るかもしれないが」

「まぁ、確かに困ってますが」

「少し考えてみてほしい。明日にでも返事を…」

「いえ。私、恋人いますので」


空気が凍えた。ブレッドさんやハングや彼の仲間だけでなく、受付嬢のお姉さん方まで固まった様子が見えた。


「わたしだってまだ彼氏できたことないのに…!?」


…受付嬢さんの怒りのポイントが見えた気がした。


「え、そんな、ちょ、まさか、え」

「そんなに驚きますか。十八年生きて来たら、一人はできますよ」

「えぁぁ!?」


今日は驚かれてばっかりだ。ブレッドさんは形容し難い声を上げた。ただでさえ大きく開けていた口がパクパクと間抜けに動いている。


「シロカってアタシより歳上だったの!?」

「は。え、ブレッドさんって私より歳下なんですか。幾つですか」

「十六だけど」

「成長早くないですか?」

「人を植物みたいに言う…」


身長だって胸だって私よりも大きいのに。まさか、そんな。一つか二つは上だと思っていた。


「あ、それどころじゃないよ。シロカって彼氏いるの!?嘘でしょ」

「それは嘘ですね。いたのは彼女、です」


言葉に詰まったのはそこに嫌な過去があったからだった。


「彼女ぉ!?」


何度目かの叫びだ、もう驚かれるのにも慣れた。ブレッドさんにはどこか冷ややかな目で見られてしまっている、そんな気がする。わざわざ自分から言わなかったのは、こうなることがわかっていたからでもある。


「えー、そういう?シロカってそういう人?」

「…ま、そういうことですね。唯一の恋人が女の人でしたし」

「アタシ、唯一の人もいたことなかったけど」

「人それぞれでしょう。きっとこれから良い出会いがありますよ」

「うわ、凄い上から目線」


それからというもの、話は平行線のままダラダラと続いた。ブレッドさんからはちょっと冷めた目で見られ、ハングさんは魂が抜けた顔をしており、周りの人々には若干奇異の目で見られることとなった。

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