私が、もっと凄かったら
ハング・アーは私たちを決闘に呼び出して、そのまま行方知らずになった。それが私の知っている情報だ。…つまり、探し出す為の条件は無いに等しい。しらみつぶしに探すしかないだろう。こういう時は勇者だなんだと言っても、自分が万能ではない事を思い知らされて何だか嫌になる。
「私が、もっと凄かったら」
そうすれば、守れるものも多かったというのに。
…今はそんな事を嘆いている場合ではない。マイナススパイラルに入る前に思考を打ち切り、私は再び足を進めた。
平原にたどり着いた私は辺りをきょろきょろと見渡した。周りには見渡す限りの草原が広がっている。平原なのだから当たり前なのだが。
何か、手がかりは?足跡とか、落とし物とか。小さな事でいい、形跡が欲しい。ゆっくりと、だが素早く周りを見て回る。見落としはないだろうか。
「ん」
そうして森の方まで歩き、とある木を見て気がつく。ここにある数本だけ幹の表面が傷ついていた。自然にできたものとは思いがたいような刃の跡。鋭い一閃の痕跡。
鎗の攻撃か。
そうなると、ここで彼が何かと戦っていた…。そう考えて良いだろうか。そう思って辺りを見渡すと、背の高い草を無理やり突っ切ったかのように、一箇所だけ不自然に倒れた茂みがあった。
茂みの中を進む。視界は草で覆われており、方向感覚を失ってしまいそうだ。ミイラ取りがミイラにならないと良いのだが。
「っと」
やがて茂みを抜け、洞穴が目の前に現れた。暗闇が遠くまで続いている。以前やったように手のひらに小さな火球を作り、それを頼りに進んでいく。
「ハングさーん!いますかぁー?」
聞こえるのは自分の声だけ。今のところは。
分かれ道に印をつけ、大きな声を出しながら進んでいく。数分歩き、一休みをし始めた頃。自分以外の声が聞こえた。子供のようにすすり泣く声が。
「ハングさーん?」
「う、うぅ…!」
声の方へと駆けつけると、そこには良い大人が体育座りで膝に顔を埋めていた。後ろ姿でわかる。吹き出物男だ。
何度か呼びかけてようやく私に気がついたハングさんは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚した顔を私の体に押し付けてきた。やめて欲しい。
「う、あぁぁ!怖かった、怖かったんだよぉ!」
「わかりましたから離れてください。私は貴方の母親ではありませんし、そうなるつもりもありません」
「暗くて、腹も減って、死ぬと思ったよぉ!あぁぁぁ!」
「わかりましたから、早く帰りますよ。ほら立って…」
そう言ってハングさんの腕を掴んだ時だった。背後から突き刺すような視線を感じる。人のものではない。獲物を見つけたという、動物の目。
後ろを見る。そこにいるのは震える男。戦力としては期待できないな。
「動かないで、そこにいてください」
「え」
「戦闘が始まります。大丈夫、貴方は私が必ず守ります」
そう声をかけて愛剣を構える。視界があまり良くない。大技でもいい、早めに戦闘を終わらせる必要がありそうだ。
4月も終わってしまいましたね…。




