知識不足のせいで後悔してきたもので
この物語を描き始めてから一年が経過しました。引き続き、完結に向けて頑張ります。
「お父さん、お帰り!」
母親から逃げるように少女は現れた大男に抱きついた。男は柔らかな笑みを浮かべて少女を撫でると、表情を一変させて私に鋭い視線を向けた。
「…この人は?」
「この辺りに迷い込んでいた人なの」
母親の答えを聞いた男は、尚も私に視線を向ける。やがて優しく少女を引き離すと、またその頭を優しく撫でた。
「ごめんな、お父さんはこの人と話があるんだ」
「え、お父さんの知り合いだったの?」
「ちょっとな。…外に来てくれ」
抵抗するな、そう言いたいのだろう。男が何を望んでいるのかはわからないが、少なくとも穏やかな話し合いで終わるとは思えない。
いざという時のために剣を回収しておきたいところだが、そんな余裕もなさそうだ。私は顎で指示する男と共に家を後にした。
「何しにここに来た」
第一声がそれだった。男の瞳には敵意しか映っていない。
「見ての通り、ここは普通なら人が通ることもない森の中だ。何も目的もなしに辿り着くことなどあるまい」
「道に迷って、という理由では納得していただけないでしょうか」
「しても良いが、だとしたら早く出てってくれ。帰り道なら教えてやる」
「何故、そこまで人が来るのを拒むんです?」
「お前が知る必要はない」
「人が来るとマズイんですね」
「貴様!」
男は素早く弓を構え、矢の先を私の額へと向ける。ここまで過剰な反応、さては街で罪でも犯したのだろうか。少なくとも彼らの家族の後ろには黒い背景があると見た。
「首を縦に動かせ。でなければ、打つ!」
「事情を聞かせてくれれば縦に動かしてもいいですが」
口答えする私の口を封じ込めようと男は矢を放つ。しかしそれは、私が生み出した氷の壁に阻まれ届くことはなかった。
「なっ…!」
呆気に取られて隙が生まれた男の裏へと回り込み、その首元を押さえつけた。我ながら完全に悪役の動きだなと呆れてしまう。しかしだ、もしこいつが放っては置けない何かをしていたのだとしたら、私はこいつを捕まえなければならないと思う。
「形勢逆転ですね」
「貴様、何が望みだ!」
「あなたの考えを知ることです」
「知ってどうなる!」
「すみませんが、興味本位です。色々と知識不足のせいで後悔してきたもので」
男は抵抗して私を振り解こうとするが、私はそれを許さない。やがて諦めた男がポツリと本音を漏らす。
「…俺たちの幸せを崩さないで欲しいんだ」
涙を流しながら、男は言葉を紡いでいった。




