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異世界勇者の人助け  作者: 鳥羽こたつ
9章
124/125

私のよく知る人と同じ名前

「俺は元々、町医者だったんだ」


その場で崩れ落ちた男は少しずつ過去の出来事を話していく。


「自分で言うのも何だが結構有能でさ。幅広い分野に対応できた。病院も小さいが沢山の人が来てくれた。女房だっていてさ…」


話の内容は明るいものだが、声のトーンは低く、悲しい。それが話の終わりを予想させた。


「だがある日、俺が処方した薬を飲んだ人間が死んだ。その日から俺は幸せな家庭を崩壊させた屑と呼ばれるようになった」

「…嵌められたと?」

「そうだ!…でもさぁ、誰も聞いてくれないんだ。毎日耳に入る罵声に嫌になった俺は町から逃げ出した。…女房を置いて」

「え?」


話の内容からその女房はあの母親だと思っていた私は家に視線を向ける。ではあれは誰だと言うんだ?


「アイツは町を逃げ出す時に出会ったんだよ」


私の視線を理解した男はそう答えた。


「記憶喪失でさ、道に倒れ込んでいた。行く宛もない俺たちは二人で放浪としていたんだ。そしてここに辿り着いた」

「じゃあこの家は?」

「偶々見つけたんだ。空き家だったから使わせてもらった。数日過ごせればラッキーだと思っていたが、まさか年単位で過ごせるようになるとはな」


憂いを帯びた表情で話を続ける。


「そっからは自給自足の生活さ。子供だってできた。ここは静かで、平和なんだ。だから」

「あなたの居場所を取らないでくれと?」

「あぁ、そうだ。…頼む!」


男はその大きな頭を下げて頼み込んだ。事情はわかった。守り続ける理由もわかった。その上で、私は結論を出す。


「わかりました」


ここは引こう。彼の選択で不幸なことになった人もいるだろうけど、彼の心情も理解してしまった。全てを捨ててやり直したくなる気持ちが。


「辛い思い出を話させてしまい、すみません。大人しく私はここを去ります」

「ほ、本当か?」

「はい。帰り道、ちゃんと教えてくださいね」


男は顔をあげると、花が咲いたかのような笑顔で私の手を握った。涙を流してお礼を言ってくれる。少し鬱陶しいほどだ。


「地図と食料を渡す。恐らくそれで町までは辿り着けるはずだ。ところで、町についても…」

「誰にも話しはしません。私も彼女らに恩がありますから」

「ありがとう、ありがとう!」


家に戻ると、男は地図を書いた紙とパンを手渡した。それを見た母親はもっとゆっくりしてから出れば良いと提案するが、聞いた事情が事情だ。あの男の心のためにも、なるべく早く出ていくべきだろう。


「もしまた森で迷い込んだら火を焚いてくれ。迎えにいく」

「わかりました。お世話になりましたね」


最後に剣を受け取り、家族に向かって一礼する。その中で少女は少し面倒くさそうな表情をしていた。


「ほら、挨拶は?」

「サヨナラ。もう迷わないようにね」

「ありがとう。えぇと」

「名前?ブレッドだよ。アンタは?」

「ブレッドさんですか。私は城花…」


ん?

今、何て言った?


「えっと、貴女の名前がブレッド?」

「そうだって言ってるじゃん。ほら、早く行っちゃえば」

「こらブレッド、そんな言い方はないでしょ」

「だってお母さん、こいつアタシに抱きついてきてさぁ」


私のよく知る人と同じ名前。

そういえば先ほど食べたオムライス、いつしかバーでブレッドさんが食べていたものと似ていた。思い出の味だと言っていた。

いや、まさか。確定するには情報が少なすぎる。

だが、でも。

もしかして私の目の前にいる、この母親は…?

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