いつもの悪夢
「もう駄目だぁ」
残された最後の非常食を口にして、代わりに口から出た言葉がそれだった。あれからというもの、次第に景色は人里から離れたものになっていく。まさか自分がここまでの方向音痴だとは思わなかった。
不安心が体調を崩しているのか倦怠感が抜けないし、前向きな思考も完全に消えてしまった。まさか自分の最期が遭難からの餓死だなんて。もう少し劇的な終わりを迎えたかったと思ってしまう。
不幸中の幸いとでも言おうか、紙やペンは持っている。こうなれば遺書でも書いておこうかと、遺す文面を考え始めた。いつかブレッドさんに前向きに後ろ向きだと言ったことがあるが、私も十分にそんな思考を持っていた。
しかし文面を考えて数分、草木を掻き分ける音が聞こえた。人間かモンスターか確かめる前に、私の手は剣の柄へと伸びていた。
音が鳴り、数秒の静寂。依然として音の主は姿を見せない。風の可能性もあるが、最悪の可能性を常に考えてしまうのは戦う者の性だろう。そうして辺りを警戒し数分、先に動いたのは音の主だった。
「そこか!」
「わっ」
ガサリと鳴った草木へ剣先を向けた。同時に聞こえたのは小さな驚きの声。幼い少女がそこにいた。
「人?こんな所に」
「それはこっちの台詞でしょ!」
と、少女は怯えた表情で叫ぶ。向けた剣先を下ろし、そこでようやく思考が戻った。
「人ですか、こんな所に!」
「何なのアンタ!」
「人だ!やったぁ!」
成立しない会話が続くのも仕方のないことだろう。この時の私は人に会えたという安心から完全に舞い上がっていたのだ。幻覚ではないかと少女を抱きしめ、頬に平手を喰らったが、それもまた安心する感覚だった。
頬がジンジンと痛むことに気がついた頃、同時に私は全身に疲れが回っていることに自覚した。人の構造というのは不思議なもので、疲れや痛みを自覚した私の体は急に休息を求め始めた。つまり。
私の意識はそこで途切れたのだった。
……夢を見ていた。いつもの悪夢だった。
足元も空も同じ色。ドス黒い赤色。聞こえるのは悲鳴。私を非難する声。私を恨む声。死ね、消えろ、お前のせいで。黒く染まった影が私を睨み、赤い液体となって消える。そして最後には、憎い者の声。
「貴様が生まれてきたこと自体が間違いだったんだよ!」
「黙れっ!」
「わっ」
飛び上がり、剣を構えようと帯刀している武器へと手を伸ばした。はずだった。気づけば丸腰、私は薄着でベッドの上で横になっていた。
知らない天井、知らない格好。そして横には気を失う前に見た気がする少女。
そうか、私は気絶してしまったのか。自覚した途端、私のお腹が悲鳴を上げた。




