毒キノコじゃん
「幻は幻です」
独り言かアタシ達に言ったのか。どちらかはわからなかったが、シロカは苛立ちを浮かべたまま言葉を紡ぎ始めた。
「幻に何を言ったところでそれは解決にはなりせん」
「ですが気分は整理されるでしょう?」
「なりませんでした。惨めになるだけだった」
その言い方はまるで、ずっとそのことに悩んでいたかのようで。
苛立ちは尿を販売していた目の前の女に対して向けていたのかと思っていたが、どうやらそうじゃないみたいだ。彼女の苛立ちは彼女自身に向けられていた。
「一応事情があることはわかりました。それならば余所者の私たちは止めろなんて言えませんね」
「止める気はないですけど」
「えぇ、そういう人は見たことがあります。なので一言だけ伝えさせてください。幻を見続けると確実に現実と混同する、ということを」
シロカはそれ以上何も言わなかったし、尿販売の女も同じだった。そしてシロカは店を出て行ってしまったが、アタシはまだそこに残っていた。聞いておきたいことがあったのだ。
「ところで質問なんですけど、ディアの体液自体に幻覚作用があるんですか?」
「と、言うと」
「いや、今までにディアの肉とか食べたことがあるので、もしそうだったら少し怖いなーと思って」
食べたのはだいぶ前のことだし、今まで特に体に異常がなかったことを考えると大丈夫だとは思うが、この街の現状を見る限り恐怖を感じてしまうのは仕方のないことだろう。
アタシの質問に対して女は顎に手を当てて考え事をしているようだ。やがてその手を下ろすと、女はアタシを手招きして奥へと向かう。着いてこいということのようだ。
女に着いて行き奥にある小さな部屋に入ると、ディアが柵の向こうに数匹飼われていた。どうやらここで尿を採取しているようだ。
「えっと、飼ってるってことは分かりましたけど」
「では彼らが食べているものを見てみてください」
「食べてるもの?」
そう言われてディアの口元へと視線を向ける。えぇと赤いような茶色いような、地味な色の細長い何かを食べている。何だろう、見たことがあるような。
「キノコ?」
「はい。マジックキノコです」
「マジック…」
聞いたこともある気がする。確か口にしたら危険なものであったような…。
「毒キノコじゃん!」
「はい、そうです」
そう、確かマジックキノコは幻覚作用や致死性が高いキノコだったはずだ。そんなものを食べさせた動物の尿だ。そりゃ幻覚作用だって現れるだろうさ。
「え、大丈夫なの!?いやダメでしょ!」
「飲み過ぎなければ大丈夫です。その為のディアなんです」
「えぇ…」
一種の濾過装置、のような考え方なのだろうか。そうだとしたらあまりにもディアが不憫だ。せめてあのディア達には毒が回っていないよう祈るだけだ。
…いや、尿に出てる時点で毒に侵されてるのか。何だか知りたくなかったなぁと、嫌な気持ちでシロカのもとへと戻るのだった。




