じゃあディアの尿で
「おかえりなさい。あの飲み物の正体はわかりました?」
席で待っていたシロカが声をかけてくれた。問いかけてから気がついたようだが、アタシの表情を見て色々察しがついたようだ。
「聞かない方が良いよ」
「騒いでましたものね」
「え、聞こえてた?」
「でぃあ、がどうのこうのっては聞こえてきました」
良かった。肝心なところは聞こえてなかったようだ。
「でもその部分を知れないとこの後の行動が取れないんですが」
しまった。そうだった。
「あれさ、ディアのその、オシッコだったんだって」
「え」
「だからその、うん。アタシたちは飲んだんだよ。オシッコ」
シロカが額を抑えて盛大にため息を吐いた。好奇心で飲んだことを後悔している様子だ。その気持ちはアタシにも痛いほどわかる。同じポーズを取りたいくらいだ。
「ディアってあれですか、草食動物の?」
気持ちを入れ替えている間に数十分ほど時間が経過していた。このままではダメだと思ったのか、シロカの方が話題を再開させる。
「そうそう角生えてる奴。前にお肉を食べたことあるよ」
旅の途中、その動物の肉を買って食べたことがあった。いつも食べているチキンやビーフと異なり少々癖がある味だったが、とても美味しい物だったと記憶している。昨日のように体調を崩すこともなかった。
「ということは肉は食べても大丈夫だけどオシッコの方が特殊なのか、それともこの地域に生息しているディアが特殊なのかってことですかね」
確かに体の一部に毒を持つが、それ以外は食用として扱われる生物は存在する。普通に考えてオシッコなんて人が飲むことはないし、シロカの話だと前者の方が可能性は高そうだが、それよりも気になる事が。
「ねぇ。公共の場でオシッコオシッコ言うの止めない…?」
「…確かに恥ずかしかったですが。では何と言い換えます?」
「えっと、じゃあディアの尿で」
「より直球では…?」
しかしそれ以上の案は思いつかず。結局この話はアタシの案で進むこととなった。
「それで気になることですけど、店員さんはディアの尿を皆が飲んでるって言ったんですよね?」
「うん。変わってるよね」
「この街ではそれが常識なんでしょう。それよりも、皆が飲んでいるということは常に一定数は尿を確保しているという事になるかと」
恐らくそうなのだろう。この街に住んでいる人が毎日アレを飲んでいるとして、カップ一杯飲んでるとしても結構な量が必要だ。偶々やって来た動物が出した量だけでは賄えないだろうな。
「あ、そうか」
「気付きました?恐らく尿を確保するための施設があるはずです」
牧場のように飼育しているか、それとも野生のディアから尿を集めているのかはわからないが、シロカの言う通りに何かしらの施設があるはずだ。そこに行けば何のためにこんな物を人に飲ませるのかを知ることができるだろう。
「では探しに行きましょう。あんな幻覚を見る液体です。人体に良い影響を与えるとは思えない」
「事情と場合によっては止めるってことだね、了解」
そう言って二人で立ち上がり、店を出ようとしたところを店員に呼び止められた。このパターン、前にも出会ったことがあるような。
「お客さん。お会計」
…そうだった。あの尿の代金を払わなければならないんだった。




