何てものを飲ませた
「あっ」
シロカが再び小さな声を上げた。視線は先ほどの男に向かっている。何事かと思うと、彼は建物の陰で嘔吐していた。あの様子、身に覚えがある。まさに昨日の夜の出来事だ。
そしてこの街を包む甘ったるい匂いの正体も想像がついた。至る所に出された吐瀉物の匂いを隠すために、どこかで濃い匂いのお香でも焚いているのだろう。
これで大体予想ができた。やはりこの街の人々は定期的にあの変な飲み物を飲んであんな様子になっているのだろう。だが、一体何のために?
考えても答えは出てこない。だが放っておくのは気分が悪いと、そう思ってしまうのも事実だった。
「シロカ、少しいいかな」
「あの飲み物の正体を突き止めると、そういうことですか」
「察しがいいね。そして、何であの飲み物が生み出されたのかまで知りたいな」
「理由のある真実に辿り着くことを祈りましょう。前回の変なモンスターのようにならないように」
「根に持ってるの?」
「自分の常識の範囲外から情報を取得するのは苦手です」
誰だってそうだ。新しいことを知るのはストレスが溜まる。苦労した上でくだらない事だったとしたらただの骨折り損だ。
でも知らないよりはマシだ。アタシはそう思う。
「まずは情報収集からかな」
「いつも通りということですか」
「そういうこと。昨日の喫茶店から行ってみようか」
どこであの飲み物が生成されているのかわからないが、少なくともあそこで提供されているのは間違いない。何かしらの情報は得られるはずだ。
早速昨日の喫茶店へたどり着いた。今日も元気に営業中だとのことだ。元気な結果が嘔吐というのであれば、まさにこの街は常識の範囲外の存在ということか。
店内に入ると昨日と変わらない雰囲気。あの不気味な店員もそのままだ。
「いらっしゃい」
勝手に席に着くが、やはりメニューも何も見当たらない。そして無言で出される木のカップ。アタシはそのカップを手に取って店員の後ろを着いていく。
「これは何なんですか」
「スィコです」
「それは何なんですか」
「ディアの小便です」
「ディアのしょうべ…!?」
耳がおかしくなったのかと、一瞬はそう思った。だが聞き直したところで結果は同じだった。あの変な獣臭い匂いも、味も、全てに納得がいった。
「何てものを飲ませた!?」
「それがウチのメニューです。他の人もそれを頼みます」
「ディアのそれを!?」
「皆がそれを飲みます」
「それを知ってて!?」
「はい」
気が遠くなりそうになった。あの飲み物の正体と、それを知っておきながら飲んでいるこの街の住人も。
とりあえず思ったことは、ディアという動物に対して色々偏見を抱きそうになったということだ。




