怒り、泣き、笑った
「この街絶対に変だよ」
翌朝、目が覚めたシロカと向かい合って話を始める。議題はもちろん昨日見た幻覚についてだ。シロカもいないはずの人が見えたと言う。
「お腹も下すし変なのは見るし。離れようよ」
「そう、です、ね」
歯切れの悪い返事をするのは怒りからだろうか。昨日の様子を見ると、彼女が大きく動揺させられたのは間違いないだろう。
それにしても幻覚を見せられたとして、何故アタシが見たものは母の姿だったのだろうか。人の一番見たくないものを見せる効果でもあったのか。
いや、とりあえず今は置いておこう。考えるのはこの街を離れてからでも遅くないはずだ。そう思い荷物を纏めてチェックアウトし宿屋を出ると、何故かそこには昨日の喫茶店の店員が立ってこちらを見ていた。ニンマリと奇妙な笑みを浮かべながら。
「どうでしたか」
「何が。最悪だったよ」
「嫌なものでも見えましたか」
返答を聞いて思わず武器に手が伸びた。こいつは何かを知っている。やはりアタシ達に飲ませたあの変な液体に何か仕込まれていたのだろうか。
店員はその変な笑顔のままふらりとどこかへ消えていった。追うべきかと考えたがこの街を離れたいという気持ちの方が勝り、アタシの足は街の出入り口まで向かっていく。
気がつけば足音が減っている。後ろでシロカが立ち止まっていた。どうしたのかと彼女の視線を追いかけると、この街に住んでいるであろう見知らぬ男性が目についた。
「あの人がどうかした?」
「様子が変です。恐らく、私たちと同じ」
同じ。ということは、変なものでも見えているのだろうか?シロカの言葉を頭の片隅に置いて彼の様子を観察していると確かにおかしかった。唐突に大きな声を出し、虚な目で駆け出したかと思うと、怒り、泣き、笑った。情緒不安定という言葉が当て嵌まりそうな人だ。
不気味なのは彼だけではない。辺りを見渡して気がついたが、彼のような人間がポツポツと見受けられたのだ。感情を全身で表現しているとでも言えば良いのだろうか、オーバーなアクションをしている人たちが沢山いる。
もしかして、と嫌な可能性が頭に浮かぶ。
この街の人たち全員がアタシ達が見たような幻覚を見ているのではないだろうか、と。少なくとも街を包む甘ったるい匂いや叫ぶ者を見ても動じない人々の様子が、奇怪なものであることは確かなことだった。




