まっっっずっ!!
戻ったかな…
「何だ、この街」
街にたどり着いた瞬間、ブレッドさんはそう呟いた。私も同じことを思う。旅人である私たちを出迎えてくれたのは、花のような甘い香りだった。
いや、その例えは少し違うかもしれない。甘い香りといっても癒されるようなものではなく、胸焼けするようなくどさを感じる匂いだ。臭い、と言ってもいいかもしれない。大分前に訪れた雑貨屋で嗅いだ、安い香水にこんな物があった気がする。鼻がひん曲がる匂いとはこれのことを言うのだろう。
「ここの人たちはおかしいと思わないのかな」
「慣れ、ということもありますし」
「そうかもだけど」
鼻を抑えながら街を歩き、一休みできることを探す。すると喫茶店を見つけたのでそこに入ることにした。店内も例の甘い香りのせいで食欲がまるで湧かなかったが。そんな中で席に着きメニューを探すが見当たらない。店員さんが持ってきてくれるのかと思い声をかけたが、その店員が持ってきたのはよくわからない液体が入った木のカップだった。
「どうぞ」
「…何ですか、これ」
「スィコです」
「スイカ?」
どう見てもスイカには見えないが。
液体の匂いを嗅いでみると獣くさいような、生臭いような。少なくとも良い匂いではない。それに、私が知るスイカでもない。
「あの、お水とかでいいんですけど。貰えないですか」
「いらないですか。いらないならぼくが貰います」
そう言うと店員は私の方に置いたカップを取り上げ、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。何だか幸せそうだが、そんなに美味しいものなのだろうか。もしかして酒のようなものだとか?
一つだけ残ったブレッドさんのカップをじっと見つめた。あんな豪快な飲みっぷりを見せられると気になってしまう。
「飲んでみようかな」
と、ブレッドさんは言った。
「同じタイミングで出したものを飲んでたので、毒ってことは無いと思いますが」
「だよね。酷い匂いだけど、それじゃあ一口」
ブレッドさんはカップに口をつけ、謎の液体を一口啜る。その直後。
「まっっずっ!」
大声を出してむせた。
涙目で咳をしながら、彼女はカップを私の方へとスライドさせた。残りを飲めと、そういうことなのだろうか。目の前でこれほどまでの反応をしているというのに。それに、それほど不味いものを笑顔で飲み切ったあの店員は一体何者なのだろうか。
とにかく、不味いと言われるこの飲み物に興味が惹かれるのも事実。もしかしたら好みが分かれる味なのかもしれない。差し出された木のカップを持ち、中の液体を口に含んだ。
「まっっっずっ!!」
不味かった。とても、すごく、非常に、不味かった。
苦みと酸味と塩味があるような、コーヒーと吐瀉物と塩を混ぜたような味だ。勿論人生においてそんなものを飲んだことはないが。
何だこれは。毒だろうか。そうだったら納得できるが、店員さんが同じものを飲んでいた以上は身体的に害があるものではないだろう。吐き気が押し寄せてきていることは確かだが。
お腹を抑えながら外へ出ようとすると、先程の店員に呼び止められた。お金を払えと、そういうことだった。
勝手に持ってきた癖に…。と心の中で怒りの炎を燃やしながら、私たちは渋々お金を払うのだった。
…お腹、壊さないといいのだが。




