意味もなく過ぎていく時間もあるのだ
クリスマスに投稿するのがこの話なのか…?
「シロカ!しっかりしてシロカ!」
攻撃を喰らった私に駆け寄り、ブレッドさんが体を揺らしてくる。私はというと、何故かぼやけた視界で悲しそうな彼女の顔を見ていた。
「クークッ。これでその小娘もワシ好みの人間になるぞぉ!脂身を好んで食うぞぉ!」
「貴様ッ」
脂身。
あの、肉のブヨブヨする部位のことだろうか。あまり好きな部位ではないが、食べ物のことを思うとお腹が。
「空かない」
「え?」
「全然、お腹は空かない…」
ぼやけた視界が元に戻る。何か変わったのだろうか。自分の手足を見てみるが、特に変化はない。
「呪いが効いていない?」
「なっ、そんなバカな」
「でも何も変わってませんよ。食欲もそのまま」
「ま、まさか…」
元村長は手にしていた杖をカランと落とすと、ワナワナと震える自分の手を見つめ、こう叫んだ。
「扉を閉める魔法で全ての魔力を使い切ったとでも言うのかぁーッ!」
あぁ、そう言えば閉じ込められていたっけ。頭に詰め込められた情報の多さのせいですっかり忘れていた。
崩れ落ちたモンスターを放っておき、ドアノブを回すとあっさり開いた。どうやら復活した魔力とやらはもう尽きたらしい。
「あぁ、村長がまた旅人に迷惑をかけている」
サメザメと泣くモンスターに蹴りを入れていると、先程情報を集めていた時に出会った村人が村長の家にやって来た。
ところで、今「また迷惑をかけている」と言ったか。まさか日常の出来事だとでも言うのか。
「すみません!この村長、村に訪れる旅人を太らせようとするんです…。怪我とか、してないですか?」
「怒って良いですか?」
「怒りなら村長に全てぶつけてください。切り刻んでも水をかければ治るんです」
ある意味恐ろしい能力なのだが。つまりは水がある限り、こいつは不死身じゃないか。
「なるべく旅人と村長は関わらせないようにしていたんですが、何しろこの村に旅人が訪れたのは数年ぶりなもので…」
「はぁ」
「そもそもこの村にモンスターがいるってことも忘れかけていて…」
確かに教会にいるモンスターのことも忘れられていたが、まさか魔法や呪いの類ではなく、ごく自然に忘れ去られていたとは。この村人達、感覚が麻痺しているぞ。
「お詫びといってはなんですが料理をご馳走しますよ。こんな小さな村ですが、料理だけは豊富なんです。あ、そうだ。呪いをかけられたのなら教会にいるモンスターに頼めば解いてもらえますよ」
まさかまた罠ではないか。そう感じるほど疑う心が強くなった私だったが、村人総出で見たこともない料理を振る舞ってくれたし、教会のモンスターは私の呪い(一応効果は薄いもののかかっていたらしい)を解いてくれた。
私たちに迷惑をかけた元村長はというと、木にくくりつけられて食事する様子を延々と見せられていた。食事が娯楽なこの村にとって、食べたいのに食べられないというのが一番の苦痛らしい。
「ご迷惑をおかけしてすみませんねぇ。でも良かったら、また来てくださいねぇ」
夜が明けて村を出ようとする私たちを、青い肌のモンスターが見送ってくれた。ちなみに怪しげにブツブツと呟いていたのは、世界平和の祈りが込められたお経を唱えていたらしい。
さて、村を出た私達だが。どうやらまったく同じことを考えていたようだ。
「ねぇ、シロカ」
「何です」
「昨日の一日って、一体なんだったんだろうね」
「わかりません」
意味不明な一日だった。無駄に驚き、無駄に疲れた時間だった。
意味もなく過ぎていく時間もあるのだと、私たちは初めて理解するのだった。




