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異世界勇者の人助け  作者: 鳥羽こたつ
7.5章
110/125

意味もなく過ぎていく時間もあるのだ

クリスマスに投稿するのがこの話なのか…?

「シロカ!しっかりしてシロカ!」


攻撃を喰らった私に駆け寄り、ブレッドさんが体を揺らしてくる。私はというと、何故かぼやけた視界で悲しそうな彼女の顔を見ていた。


「クークッ。これでその小娘もワシ好みの人間になるぞぉ!脂身を好んで食うぞぉ!」

「貴様ッ」


脂身。

あの、肉のブヨブヨする部位のことだろうか。あまり好きな部位ではないが、食べ物のことを思うとお腹が。


「空かない」

「え?」

「全然、お腹は空かない…」


ぼやけた視界が元に戻る。何か変わったのだろうか。自分の手足を見てみるが、特に変化はない。


「呪いが効いていない?」

「なっ、そんなバカな」

「でも何も変わってませんよ。食欲もそのまま」

「ま、まさか…」


元村長は手にしていた杖をカランと落とすと、ワナワナと震える自分の手を見つめ、こう叫んだ。


「扉を閉める魔法で全ての魔力を使い切ったとでも言うのかぁーッ!」


あぁ、そう言えば閉じ込められていたっけ。頭に詰め込められた情報の多さのせいですっかり忘れていた。

崩れ落ちたモンスターを放っておき、ドアノブを回すとあっさり開いた。どうやら復活した魔力とやらはもう尽きたらしい。


「あぁ、村長がまた旅人に迷惑をかけている」


サメザメと泣くモンスターに蹴りを入れていると、先程情報を集めていた時に出会った村人が村長の家にやって来た。

ところで、今「また迷惑をかけている」と言ったか。まさか日常の出来事だとでも言うのか。


「すみません!この村長、村に訪れる旅人を太らせようとするんです…。怪我とか、してないですか?」

「怒って良いですか?」

「怒りなら村長に全てぶつけてください。切り刻んでも水をかければ治るんです」


ある意味恐ろしい能力なのだが。つまりは水がある限り、こいつは不死身じゃないか。


「なるべく旅人と村長は関わらせないようにしていたんですが、何しろこの村に旅人が訪れたのは数年ぶりなもので…」

「はぁ」

「そもそもこの村にモンスターがいるってことも忘れかけていて…」


確かに教会にいるモンスターのことも忘れられていたが、まさか魔法や呪いの類ではなく、ごく自然に忘れ去られていたとは。この村人達、感覚が麻痺しているぞ。


「お詫びといってはなんですが料理をご馳走しますよ。こんな小さな村ですが、料理だけは豊富なんです。あ、そうだ。呪いをかけられたのなら教会にいるモンスターに頼めば解いてもらえますよ」


まさかまた罠ではないか。そう感じるほど疑う心が強くなった私だったが、村人総出で見たこともない料理を振る舞ってくれたし、教会のモンスターは私の呪い(一応効果は薄いもののかかっていたらしい)を解いてくれた。

私たちに迷惑をかけた元村長はというと、木にくくりつけられて食事する様子を延々と見せられていた。食事が娯楽なこの村にとって、食べたいのに食べられないというのが一番の苦痛らしい。


「ご迷惑をおかけしてすみませんねぇ。でも良かったら、また来てくださいねぇ」


夜が明けて村を出ようとする私たちを、青い肌のモンスターが見送ってくれた。ちなみに怪しげにブツブツと呟いていたのは、世界平和の祈りが込められたお経を唱えていたらしい。

さて、村を出た私達だが。どうやらまったく同じことを考えていたようだ。


「ねぇ、シロカ」

「何です」

「昨日の一日って、一体なんだったんだろうね」

「わかりません」


意味不明な一日だった。無駄に驚き、無駄に疲れた時間だった。

意味もなく過ぎていく時間もあるのだと、私たちは初めて理解するのだった。

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