何だその本音は
教会の扉を開けると、そこにはローブを纏った男が怪しげに何かを唱えている。近づいてみると、頭に一本角が生えていることがわかった。こいつが例のモンスターに違いない。
「あの」
「はぁい?」
思わずズッコケそうになった。怪しげな雰囲気とは正反対に、すごく間抜けな声で返事が返されたのだ。しかも青い肌をしたその人型モンスターはこちらがドン引きするくらいに良い笑顔をしていた。
「えぇと。貴方がこの村の人々を呪っているモンスターですか?」
「そうですぅ」
「何でそんなことを」
「お腹いっぱいになれば人は幸せでしょう?ワタシは幸せを配りたいのですぅ」
「はぁ」
何だか気の抜けてしまう声を聞きながら、とりあえずこちらの用件を伝えようとする。「その呪いで苦しんでいる人もいるので、呪いを解きたい人がいれば解いて欲しい」と言うと、モンスターは即座に答えた。
「わかりましたぁ」
五分もかからず解決した。
「まさかこんな、話せばすぐ解決できることに数年も悩まされていたとは…」
教会を出て村長に結果を伝えようとする道中、ついついボソリと呟く。小さな独り言のつもりであったが隣にいるブレッドさんには聞こえていたらしく、返事が返ってきた。
「ほら、人は見た目が九割って言うじゃん。話し合おうとも思わなかったんじゃない?」
「人間の悪いところですね」
「自分は違うとでも?」
「いえ…」
事前に村人から情報を集めなければ、出会い頭に斬りかかっていたかもしれない。自分もその悪い人間なのだと、そう戒めながら村長の家の扉を開けた。村長はその皺だらけの顔を隠すように私たちに背を向けている。
「村長さん、お話が」
「クーッククックッ」
私たち二人が家に入ると、同時にその扉が独りでに閉じた。改めて開けようとするもビクともしない。閉じ込められた。
「何を?」
「マヌケな旅人じゃ!まんまとワシの仕掛けた罠にかかってくれたぁ!」
老人が叫ぶと同時に、彼は先程教会にいたモンスターと同じ姿に変化していった。違うとしたらその肌が青いか赤いかの違いだ。
まさか村長さんがモンスターだったとは。めちゃくちゃ怪しいとは思っていたが、だからといって本当にモンスターだとは思わなかった。
私が一人で後悔している中、ブレッドさんが目の前のモンスターの言葉に対して反応を示す。
「罠だって!?」
「そうだとも!こんな怪しい人間の言葉に騙され、わざわざその依頼を達成しようとするなど、愚か者のすることじゃ!」
「ぐっ」
否定できない。まさか、抵抗しろ、放っておけと考えていたことが正しかったとは。モンスターだから退治する、という話を無条件で信じた自分を恥じる。
「でも何で、アタシたちを一度家から出した!襲えばよかったのに!何も知らない時に!」
「魔力が溜まっていなかったんじゃ!」
「ぐっっ」
あの時気づいていれば、こんな面倒なことにならずに目の前にいるモンスターを倒すことができていたと言うのか。迂闊な自分に対しての後悔ばかりが強くなっていくのがわかった。
「今のワシは魔力がマックス!お前たちにも呪いをかけてくれる!特別な呪いじゃぁ!」
「特別?まさか食欲が高まるのは嘘だとでも!?」
「それは本当じゃぁ!」
何なんだ、今私は何を聞かされているんだ。目の前のモンスターのやりたいことも言いたいこともわからない。
「何をやりたいんだ、アンタ達は!?」
「ワシらは太った人間の見た目が好きなんじゃよぉぉ!」
「何だその本音は!?」
喉まで出かかった言葉が、今度は止まることがなく放出された。
そんなフェチズムを持ったモンスターなど見たことも聞いたこともない。私は今、常識外から殴られている。情報量の多さのせいで頭がクラクラと揺れていた。
「だからお前たちも肥えさせてやるよぉぉぉ!」
いつの間にかモンスターが手に持っていた杖の先から光線が放たれた。初めての経験に戸惑ってしまったためか、避けられるはずの攻撃が直撃する。
これで私は肥満人間となってしまうのだろうか。こいつのフェチズムを満たすために?
奴のために太るのは悔しいなぁと、それだけは自覚しながら何故か視界はぼやけていった。




