吐いたかぁ
「シロカ。見てみて、凄い快晴だよ」
腐った者同士の会話から一晩明けて。
旅立ちの準備をした私たちはソレッティさん達と合流するために宿屋を出た。
「本当ですね。雲一つない空って奴ですか」
「何だか気持ちも晴れるよねぇ」
彼女の言う通りだ。これがこの天気のおかげなのか、それとも昨日の会話のおかげなのかはわからないが。
お酒の力は凄いなと思う。今の状態だったら、ほぼ初対面の人間に自分の内面なんて曝け出せない。それが自分の思考の根幹に関わる部分なら尚更だ。しばらく付き合ってるブレッドさんとでさえ、まだそんなに曝け出していないのだ。
「…ブレッドさん」
「何?」
「今度お酒、飲みませんか」
「未成年に飲酒を勧めるの?」
アホか私は。そんなの犯罪だろうが。
二日酔いの可能性を疑いつつ待ち合わせの場所に行くと、そこには二人しかいなかった。スォンナさんの姿が見当たらない。
「お待たせです。妹さんは?」
「ベッドの清掃中よ」
吐いたかぁ。
「これで取り分が増えたわ」
「そんなことを言うなよ、家族だろ。何だかんだで仲良くしてたじゃないか」
「はぁ?あんた何言ってんの。あたしがあいつと仲良くなんてするわけないでしょ」
ソレッティさんは昨日と同じ態度を見せるが、本音を知らない二人は微笑ましいものを見る目をしている。その目に対し、逆にソレッティさんが違和感を覚えているみたいだ。
スォンナさんの話はそこで終わり、私たちはギルドへ着くと依頼の達成を報告した。報酬金は四人で山分けとなったが、私の取り分だけはソレッティさんへと渡すことにした。昨日スォンナさんが彼女から奪い取った救出料の分だ。
「…何だか受け取りづらいわね。頭冷やしてから考えたら、シロカさんは悪くないでしょ」
「ソレッティさんが受け取らない場合は、スォンナさんのツケの支払いに使おうかと思います」
「貰っておくわ」
彼女たちとはそこで分かれた。たった二日程しか一緒にいなかった筈なのに、何だか随分と長く一緒だったような気がする。
街から出ようとすると、また見覚えのある姿が現れた。タバコを吸うあの姿、間違いない。
「ベッドの掃除は終わったんですか?」
「ソレッティだな。アイツは余計なことしか話さない」
「自分は違うとでも?」
「餞別を送りに来た。用件はそれだけだ」
スォンナさんは強引に話を終わらせると、あいてむぼっくすから小さな瓶を取り出し私に向かって投げ渡した。中にはよくわからない粉が入っている。
「ある植物の種を砕いた薬だ。肝臓に効くらしい」
「スォンナさんが使うべきでは?」
「わたしは今禁酒中だ」
「昨日私と出かけましたよね」
「知らん、そんな事実は記憶にない」
彼女らしいその返事に思わず笑みが浮かんだ。その内面を知ると、一つ一つのやり取りが楽しくなる。気がした。
「お前は旅を続けるんだろ」
「はい。死んでもいい人間になるために」
「次に会う時はきっと死後の世界だろうな。わたしはきっと長生きしない」
「生き急いでますものね」
「できれば痛みを知らないで逝きたいものだ。…旅の無事を祈っている」
そう言うとスォンナさんは視線を私からブレッドさんへと切り替える。
「あいつと酒でも飲んでやれ」
「えぇっ。シロカもそうだけど、何でそんなに犯罪を勧めるの。アタシ未成年なんだけど」
「別に今すぐなんて言ってない。成人してからでいい。わたしが犯罪など勧めるわけないだろ」
「いや、あんた。…もうツッコむのも面倒くさいわ」
そのやり取りを最後に、スォンナさんは場を離れた。少しでも長生きをしてほしいが、どうだろう。それが彼女の望む生き方だと言うのなら、それはそれで良いのかもしれない。彼女の生き方に文句をつける権利など、私にはない。
「ねぇ」
街から出て数分経った頃、ブレッドさんが話しかけてきた。
「何だかさ、スォンナさんと凄く仲良くなってなかった?」
「そうですか?」
「そう、絶対そう。何だか昨日より全然様子が違うし。何、お酒のおかげ?」
どうだろう。振り返ると、仲良くなった切っ掛けが何だったのか思い出せない。
「何か、ずるい」
「は」
「アタシよりも凄く仲良くなってる気がして。…何かモヤモヤしてる。やっぱりアタシもお酒飲もうかな」
「ダメですよ、犯罪ですよ」
「自分で勧めたくせに!」
そうだったか、そうだったかも。
冷えた頭で考えると別にお酒は必要ない気がする。ブレッドさんとは、きっとそんなものなくても本音を出せる仲になれるのではないかと、そう思うのだ。
「成人したら一緒に飲みましょう」
でも一緒に飲むまでに、全部話し合えるほどの仲になっていればいいな。
そう思いながら私たちは晴れ渡る太陽の下を歩いて行った。




