思っているだけでは、何も伝わらないか
「生きるのが嫌になったと、この前話しただろう」
私が答える前にスォンナさんは言葉を紡ぐ。
彼女が今言った言葉は以前洞窟で聞いたものだ。私がその言葉にどこか共感してしまったため、今こうやって彼女と一緒にお酒を飲んでいる。
「別に特別なことがあったわけじゃない。友人が亡くなったとか、酷く虐められたことなどはない」
「…」
「ふとした時に思っただけなんだ。わたしの人生がまだ数十年残っていると。この退屈な人生がまだまだ続いていくんだろうなと」
「はい」
「十何年生きてきたが追いたい夢もない。夢中になる恋人もいなければ趣味もない。わたしの一日は何もしなくても過ぎていくんだ。目標のない人生がまだ数十年と続くことを想像すると気が狂いそうになる」
そんなことを考えたことはなかった。私は今のところ何かしらやりたいことを見つけていたし、今だって自分の世界に帰ることが目的だ。
だが、彼女が言うようにまだ人生はたくさんあるのだ。ならば。
「この話をすると誰もがこう言うんだ。そのうちやりたいことが見つかると」
そうだ。私だってそう思う。
「だからわたしはこの世界が嫌いなんだ」
「え?」
「いいか?そいつらはわたしと同じ年数を生きてきて何かしらやりたいこととやらを見つけているんだ。いや、わたしに助言した奴ら以外だってそうだろう。全くの虚無を感じた仲間など見たことがない」
苛立ちをぶつけるように彼女は早口になった。気がつけば灰皿の吸い殻が増えている。今咥えているのは四本目らしい。
「奴らはわたしの気持ちなんて考えず、適当な慰めの言葉しか発さない。ソレッティだってそうだ。特にあいつは酷いな」
「だからケンカするんですか?」
「しやすいからな」
「やつあたり、というやつなのでは」
「はは、そうだな。わたしはクソガキだ」
渇いた笑い声だった。
「周りと違うことに苛立ちを覚え、わかってもらう努力もしない。異質なのはわたしだというのに、周りに合わせようともしない。本当に子どもだ」
「それは」
「合わせる方法がわからないんだ。誰も、教えてくれなかった」
「私にも、わかりません」
「だが自然とわかることなんだろう?わざわざ教わるまでもなく」
きっと、そうなのかもしれない。考えたこともないからわからないが。
「結局は快楽に逃げ、酒とタバコに溺れる毎日だ」
「…」
「気にしたか?気にする必要なんてない。こうなったのは自己責任だ。わかってるさ」
初めて出会った時は、そんな悩みを抱えているとは思えなかった。
こうして言われて、私は初めて、彼女という存在を理解できた。
…思っているだけでは、何も伝わらないか。
ブレッドさんに対してもそうだろう。私は彼女の心を想像しているだけだし、恐らくそれは向こうも同じだ。ブレッドさんは何を考えているのか、聞いてみる必要があるのかもしれない。
「さて、わたしの話は終わりだ。実に辛気臭い話だっただろう?」
気がつけば灰皿が一杯になっていた。だいぶ時間が経っていたらしい。
「お前の話も、聞いてみたい」
「えっと」
「一度話してしまえば他の人にも話しやすくなるぞ。ブレッド、だったか。アイツと話をしたいんじゃないのか」
まるで超能力者のように彼女は私の心を読み当てた。本当に年下なのだろうか。段々と彼女が人生経験豊富なカウンセラーに見えてきた。
「それなら、その、少しだけ」
「あぁ」
「私の場合は、なんですけど」
胸がドキドキする。自分の弱みを見せるのは苦手だ。心情を吐露することで、嫌われてしまうのではないかと勘繰ってしまう。
「守れなかった人のことが、頭から離れないんです」




