心に、闇
「酒は回ったか?」
少しぼーっとした時だった。隣にいるスォンナさんがそう言ったのは。私よりもハイペースで飲んでいるはずの彼女はようやく本調子になったとでも言うように凛々しい顔をしている。
「おかげさまで。美味しいお店ですね」
「もっと美味い店はあるが出禁にされていてな。どうやらこの町はわたしに優しくないらしい」
「優しくされたいなら人に優しくしやがれ」
「デビルフィッシュみたいな頭をしている奴が何か言ってるな。脳みそまでイカれてるみたいだ」
「お前、ドリーの知り合いじゃなけりゃ今すぐ追い出してるからな!」
どうやらこの店主さんはドリーさんと仲が良いらしい。彼の頼みで、彼女はここでお酒を楽しめているようだ。
「ちょっと目を見せてみろ」
と、スォンナさんは凛々しい顔で私の瞳を覗き込む。こうして見ると彼女は綺麗な容姿をしていた。酒とタバコを愛している割に肌は綺麗だし、スタイルも良い。性格がまともであれば恐らくモテていたんだろうな、アルコールが回る脳みそで私はそう感じていた。
「あと一杯くらいか」
「何の話です?」
「おいオヤジ、飲みやすくて度数の高い酒を頼む」
「吐くなよ」
「わたしじゃない。飲むのはこのチビだ」
私の意思とは関係なく注文された、綺麗な色のカクテルが目の前に用意される。何だかよくわからないが、勧められるがままに飲み干すと急に思考が上手く回らなくなった。酔っている、という感覚以外がなくなったのだ。
「よし、良い目だ」
「なんのはなしです?」
「あの時見た、腐ったお前と話してみたかったんだ」
「くさった」
「酒は心の壁を砕くんだ、良くも悪くもな。心に闇が溜まっているなら、壁がなくなった今のうちに捨ててしまえ」
「はぁ」
心に、闇。
ぐてっとした私だが、その言葉には少し反応を示した。恐らくそれはずっと私が抱えていたものだ。これからも離すことはないだろうと思っていた。離す方法もわからないし、離してはならないものだと考えているから。
自分の闇、いや、罪を再認識する。
犯した罪は無くならないし、軽くなることもない。ならば許されることしかないのだろうが、そのためには罪を忘れないことが大事なんだ。
「先にわたしの話でもしようか?」
脳みそが嫌な方向へ持っていかれる。胸に何か油のようなものが溜まったような感覚に苛立ちを覚えた私に向かって、スォンナさんは優しく微笑んだ。申し訳ないことをした、とでも言いたげな顔だった。
「お前、世の中を生きにくいと思ったことはあるか?」
一本のタバコに火をつけて、彼女はそう語り始めた。




