よく生きていられますね…?
こっちだ、とスォンナさんは私の手を引っ張る。
結局あの後、特に大きな問題もなく洞窟を抜け出した私たちは一度それぞれの宿に戻ることとなった。すっかり日が暮れていたため、依頼の達成報告は明日に持ち越しとなったのだ。
ただ私たちだけは違った。ソレッティさんからふんだくるようにお金を貰ったスォンナさんは、行きつけの店に私を連れ出したのだ。あの時のソレッティさんの顔は忘れられない。今にも怒りを刀に込めて襲いかかってきそうだった。
「アイツのことは忘れろ。いつものことだ」
「いつもあんなことをしているんですか?」
「いつもはもっと雑だ。それに、アイツ以外にたかったこともある」
「よく生きていられますね…?」
そのうち恨みを持った人から背後から刺されそうだ、と言うと「できれば酒に酔ってる時がいいな」と返された。痛みを感じずに済みそうだから、だそうだ。
一緒に歩いていると私も刺されそうなので背後を警戒したが、何も起きずに店へとたどり着いた。喜ぶべきか、こんな心配をしなければならないことを悲しむべきか。
「おぅ、スォンナじゃないか」
私たちを出迎えてくれた店長さんのようなオジサンは、スォンナさんを見ると同時に、恨めしそうに皺を寄せた。一眼でわかる。歓迎されていない。
「嫌そうな顔をするな。今日は金も持ってきている」
「ほう?じゃあ先にそれを渡せ。今までのツケの分を返してもらうぜ」
「それはこの前来た時に払っただろうが」
「数も数えられなくなったのか?まったく足りなかっただろうが!」
何だかもう驚かなくなってきた。寧ろ出会ってからの彼女を見ると、未払い分の料金を踏み倒さないだけマシだと思ってしまう自分がいた。
舌打ちをするスォンナさんからお金を取ったオジサンは紙幣を数えると大きなため息をついた。どうやらまだ足りないようだ。
「まぁ…、返してもらえただけでもマシか」
「そうだろ」
「それで、そこの娘は?うちは未成年に出す酒なんてないぞ」
オジサン。隣にいる人、未成年のはずです。
そう思ったがスォンナさんにはまったく反応を示さないあたり、もう気にもされていないらしい。
「未成年なんていないぞ。どうした、加齢で目がイカれたか」
「お前、ほんと、覚えておけよ」
慌ててすてーたすうぃんどうの内容を記した紙をオジサンに見せた。彼女の人を怒らせる才能には、最早感心してしまう。
「お嬢ちゃん、そいつより年上なのか?」
「すみません。発育が悪い物で」
「いや。…後は金さえ払ってもらえれば、全然文句はないが」
寧ろ払わないつもりの方がなかったのだが。スォンナさんを基準に客を見ていると、他の全員が聖人に思えるのではないだろうか。
渡されたメニュー表を見て勉強の成果を発揮する。最近少しだけ読み取れるようになった文字の羅列を見て、なんとなく響きが美味しそうなお酒を頼み、私たちは二人で静かに乾杯をするのだった。




